第34章 炎天
毎日毎日、鷹見は彼女の様子を見に行った。
話し相手ができて嬉しかった。
友達になりたかった。
毎日毎日、彼女とたあいない話をした。
初めはただの庇護欲でしかなかった関係が、次第に意味を持ち始めた。
彼女の個性が鷹見伝いに公安に知れ、鷹見と同じく、エージェントとしてのスカウトが来て、更に彼女と過ごす時間が増えた。
公安が用意した宿舎で、彼女と二人暮らしていた。
『いってらっしゃい』
「はーい、行ってきまーす」
朝起きて。
訓練をこなし、任務をこなす。
『おかえり』
「ただいまー!聞いてよ、自己最速記録更新した!ドアトゥドアで仕事終わりまで1時間!」
『頑張ったね』
夜眠り。
また次の日も訓練をこなし、任務を終える。
『いってらっしゃい』
「んー…いってきまーす」
陽の光と共に帰って。
必死に自分の両手を洗う。
『あれ…おはよ。帰ってたの』
「っ……おはよー……起こした?ごめんね、すぐ寝るから」
夜、眠れない日々が続いて。
それでも日の出と共に任務をこなして。
毎日毎日。
帰ってくるなり嘔吐した。
『……鷹見くん、大丈夫?』
「あー、大丈夫!なんか胃の調子最近悪くてさ…」
大丈夫じゃないよ
「風邪かな?気にしないで、大丈夫…」
大丈夫なんかじゃない
気づいて
気づいてよ
『大丈夫じゃない。眠れないなら、一緒に寝ようよ』
年齢が上がるにつれて、エスカレートしていく公安の要求。
心が潰れそうになった時。
支えてくれたのは彼女だった。
自分よりも歳下の彼女の優しさに、俺は年甲斐もなく縋りついた。
彼女に抱きしめられて、眠るようになってから。
驚くほどに、深く深く眠れるようになった。
炎を体の内に宿した彼女の体温は、まるで焚き火にあたっているかのような暖かさと、心の平穏をもたらしてくれた。