第34章 炎天
「俺の想いが邪魔なのは知ってる。でも俺は君の恋人になりたい。どうして突き放すのか教えてほしい。俺の何が足りてないのか、伝えてほしい」
を抱きしめるホークスの両腕に、さらに力が込められる。
は、彼の想いの強さを肌で感じ取りながら、ただ、呆然としていた。
ホークスが少しだけ彼女から体を離して。
至近距離で彼女を見つめた。
吐息がかかるその距離で。
ホークスは何度も告げる。
「君が好きだよ。何年も何年も昔から……君が好きだった」
覚えているのは、見知らぬ天井。
聞き慣れない医療機器の音。
ベットの横に立っている、翼を持った少年の姿。
「よかった、目醒めんかと思っとった」
大丈夫?
今先生を呼ぶから、と。
少年はそう言って、大人達を呼んできた。
「意識が戻って良かった。君、自分の名前がわかるかい?」
『…………。』
「警察に連絡を。身元を調べて。…失礼、さん。君の誕生日は?」
『……わかりません』
「親御さんは?君の身元がわからなくて、まだ事故にあったことを誰にも知らせていないんだ」
『…………わかりません』
「え?…他に何か思い出せる?君、車に撥ねられたことは覚えているかな。事故のことは?」
鷹見とが出会ったのは、鷹見がまだ14歳の頃。
身体の大きさから、彼女はまだ齢8歳か、9歳、その辺りの年齢だろうと推察された。
博多のあまり人通りが多くない路上で、夜間、突然、走る車の前に飛び出してきた彼女を見つけ、正面衝突を間一髪避けたのは、彼の剛翼のおかげだった。
「ごめんな、スピードが足らんかった」
翼で車との衝突を避けたはいいものの、錯乱していた様子の彼女は剛翼の支配から逃れようと、宙で暴れーーーゴッ、と鈍い音を立てて、頭から地面に落下した。
意識不明の彼女を病院に運び。
丸一日が経って、ようやく彼女が目覚めた時には。
鷹見と出会う前の記憶の全てを、彼女は取り落としてしまっていた。