第34章 炎天
一生の思い出ができた、と。
君が言った。
「ーー……それは良かった」
その言葉の意味をホークスは数秒だけ思考して、あまりに簡単な答えに到達し、考えるのをやめた。
「……来年も居たいと思う?」
公安の後ろ盾を失った彼女は。
次の桜が散る頃に。
雄英を出ていかなければならない。
そのあとは、高校の卒業認定試験を受けて、目立たないように一般市民として暮らすことが義務付けられている。
『どうかなぁ』
彼女はそう言って、手近な鉄塔の上で羽休めした。
手招きしている彼女の隣に、ホークスがものの1秒で到着する。
『来年は、ホークスの仕事を手伝いたいな』
「歓迎するよ」
風が強く吹いている。
少しだけふらついた彼女の肩を片手で抱いて。
ホークスは、そのまま彼女を抱きしめた。
「文化祭に負けないくらい、楽しい思い出をたくさんあげる」
約束するよ、と。
ホークスが囁いた。
「、あのさ。またしばらく会えなくなる。電話もできない。任務があるから」
淡々と告げる自分が嫌になる。
会えなくなるなんて言うなよ。
電話ぐらい、彼女が大切ならしてみせろよ。
頭の中でそんな別の自分の言葉が反芻する。
「…ごめん」
好きだなんだと言う割に。
優先順位が徹底している自分のこと。
昔から大嫌いだった。
今も昔も変わらない。
変わらずにいる自分が誰より嫌いだ。
変わりもしないのに。
君を諦められないところは、もっと大嫌いだ。
『会えないのはいつまで?』
珍しく、君が問いかけてきた。
俺は答えた。
「……わからない」
君は沈黙のまま。
俺の背に、手を回し返してくれた。
わかった、と。
か細く許容した声を聞いて。
俺はグッと目を閉じて、息を深くついた。
「、好きやけん。俺と付き合うて」
耳元で聞こえてきた唐突な告白に、が目を見開いた。
『……えっ?』
今まで、ずっと。
意図的に、計算的に避けていた彼の思いの発露。
脈絡のないその言葉を聞いて、がホークスから離れようとみじろいで、抱きしめる両腕の強さに抱き止められた。
「これが最後。もう困らせたりしないから」