第34章 炎天
「久しぶり」
ビルボードチャートの表彰式が執り行われたその日の夕方。
ホークスとは、久しぶりに会う約束を交わしていた。
「今日は何時まで一緒にいれるの?」
『まだ、雄英から何も言われてないから何時でも』
「まだ?…そうなんだ」
私服姿のホークスと、寮から出てきたが二人。
並んで空を飛ぶ。
「カルラも、久しぶり」
《……。》
一切彼女以外には返答をしないカルラ。
返答どころか、一瞥もくれない火の鳥を見て、ホークスがいつものことかとため息をついた。
(…まだ?おかしいな。公安から雄英へ、通知が行くはずなのに)
彼女と接するにあたって、雄英にはいくつか彼女の行動に関して、目をつぶってほしいと通知が行っている。
一つ、必要以上に彼女の経歴について詮索をしないこと。
一つ、除籍と復籍の権限は、彼女には適応できないこと。
一つ、彼女が誰かと戦闘になったときには、相手が誰であれ彼女の援助をすること。
一つ、彼女の「任務」の障害となる行為は避けること。
一つ。彼女がどこへ行き、所在不明の時間が続いても、追うようなことはしないこと。
だから、彼女には全寮制の雄英だったとしても、行動の制限はかからない。
外出届すら必要ない。
公安公認のエージェントなのだから。
しかし、彼女はつい先日、公安から除籍された。
特権の行使ができないように、訂正通知が雄英へ飛んでいるはずなのだが、それがまだ効力を発揮していないらしい。
(…まぁ…ありがたいけど)
自由気ままに空を滑空しながら。
ホークスは彼女の姿を視界から外さない。
「文化祭の話して」
『いいよ、どこから話そうか』
「準備期間から」
ライブが、演出が、と。
彼女はカルラと空を舞いながら、楽しそうに話し続ける。
「焦凍くんは」
『ん?』
「一緒に回ったの」
『一緒にクレープ食べた。エリちゃんも』
二人きりじゃないよ、と。
彼女が言ってくれたようで、ホークスは単純に。
嬉しくなった。
「楽しかった?文化祭」
『楽しかった』