第33章 ティータイムの後で
「あんた、炎ばっかり見て、何も食べないのか」
突然現れた心操に、の反応が遅れた。
ニヤついていた口元を咄嗟に片手で隠し、声の主を見つめた。
『……えっ?なに?』
「何ニヤついてんだ」
その指摘を聞いて、は硬直した。
数秒の沈黙の間、はじっと心操の表情を注意深く観察し、口を開いた。
『見上げてたら口開いてた』
「アホ面してたのか」
『うん』
戦るか?とがファイティングポーズを取るが、心操は黙っての隣に並び、同じように燃え盛る炎を見上げた。
「あったけぇ」
『………。』
「こんなにでかい火もそうそう見ないよな」
『…………』
「…なァ、別に洗脳したりしねぇんだけど。なんでしかめっ面して黙ってる」
『変なこと言いそう』
「は?」
それだけ言って、または、口を滑らせまいとするように口をきつく一文字に結んだ。
その様子を見ていた心操は、はぁ、と軽くため息をついた。
「あんたの言うことなんて大抵変だろ」
『どういうイメージ?』
「イカレてる」
『………』
ズバズバと斬りつけてくる心操に、は反論することをしない。
あまりにもしおらしくやられっぱなしのがいたたまれなくなったのか、心操がバツが悪そうな顔で「なんか言い返せよ」と言って、の方を向いた。
「ーーー。」
ガラスのような彼女の瞳に炎が反射している。
ほんの少しの熱風が、彼女の髪を撫でて揺らしては、駆け足に過ぎ去っていく。
は無表情で炎を見つめ続けている。
心操が盗み見たその横顔の鼻先はスッと涼しげで、唇はいつも艶っぽい。
「ーーー……綺麗だよな」
心操の口から滑ったその言葉を聞き、が一瞬で心操の方を向き直った。
その俊敏さに驚き、心操がビクッと肩を震わせた。
『綺麗?炎が?』
「っあぁ、そう…炎が」
かぁっと赤面する心操を見つめて。
はなぜか、ほっとしたように言葉を漏らした。
『……綺麗だよね。うん、そう思うよね』
「ほ、炎がな!」
『うん、燃える火は綺麗だよ』
安心した、とは気が抜けたような笑みを浮かべた。
心操はその笑顔を直視し、かぁっと赤面した。