第32章 変容
さかな、と。
轟が湯呑みの中の茶柱を見つめながら、呟く。
「水族館ってどんな感じだ」
『綺麗。魚がライトアップされてる』
「…そうか。イワシも?」
『うん、そうだね』
「…さんまも?」
『たぶんそのラインナップは食用だね。観賞用の魚が多かったよ』
「観賞用……マグロか」
『解体ショーだよね、それ。サメとか熱帯魚とか』
さめ…、と。
物憂げに轟が呟く。
リビングに戻り、一人ひとつのアイスと、湯呑みをテーブルに置いて、向かい合った。
席につくや否や、轟がをジッと見つめ、打診した。
「水族館、次行くとき、俺もついて行っていいか」
『え?……うん、どうぞ。…でも、そんなに頻繁には行かないよ?』
「………そうか。次はいつだ?」
『んー…行く予定はなかった』
二人の間に流れる沈黙。
少しして、そうか、と轟が頷きながら呟いて。
しばしの無言の後、様子を伺うように、轟が上目遣いでを覗き見て、またアイスクリームへと視線を落とした。
「もしよければなんだが」
『うん』
「…文化祭終わったら」
『ん?』
「一緒に行かないか」
俺と、と。
そこまで言って、轟は怖くなって、言葉を付け足した。
「…クラスのみんなと。行きたいやつ誘って」
『うん、いいね』
遊びに行こう、とが微笑む。
轟はその笑顔を真っ向から受け止めて、口をつぐんだ。
(二人でって、言えたらよかった)