第32章 変容
ディ、ディロロロン……
物悲しすぎる不協和音に、ついに耳郎が吹き出した。
は黙って常闇にギターを返却する。
轟から見えるの背が、少ししょんぼりとして見えた。
「ごめんって!ごめん!そんな顔しないで!上鳴との連続パンチが効いた」
「初めて触れたなら仕方ない」
「雑ー魚」
「爆豪やめて!!マジで悲しい顔してるから!!」
バンド隊のところから、ようやくが戻ってきた。
『…あ、轟くんおかえり』
「ただいま。…楽器で遊んでたのか」
『うん、面白かった』
すとん、と。
他のメンバーが既に座っているミーティングテーブルに、が腰掛ける。
「轟、今日は何組の子だよ」
「あーもーその話題禁止な、瀬呂。轟だって苦労してんだから」
「モテてする苦労ならしてみたいっての」
「と、轟くん、走って帰ってきてくれたんじゃないの?瀬呂くんが毎日その話するから」
「え?そんな気にしてんのか。ごめんって」
「いや…こっちこそ悪い」
「で、今日はなんて名前の子?」
「「こら」」
ライブ演出を煮詰めるミーティング。
結論、裏方に更に人手がほしいという意見がまとまった。
ダンス隊リーダーの芦戸に切島と瀬呂が打診しにいく間、甲田は自室のうさぎに餌やりをしに行った。
と、轟の二人だけでリビングに残る。
『コーヒー飲む?』
「いや、お茶にする。、夜眠れなくなるぞ。お茶にしたらどうだ」
『ううん、別に大丈夫。最近寝る前の読書をしてる』
「…へぇ。なんて本だ」
『忘れた』
「…タイトルをか」
『うん、長くて。覚えられない』
覚えられない、というより、覚える気がないらしい彼女は、結局キッチンで隣に立つ轟の手に妨害され、コーヒーの準備を断念した。
「最近」
『ん?』
「一緒に帰れなくて悪い」
轟が二人分のお茶を淹れる手元を、は隣に立って眺めている。
『ううん、仕方ない』
「…」
は轟が誰に呼び出しを受けようと、誰に想いを寄せられていようと。
まるで興味がなさそうだ。
一緒に帰れない、と毎日のように告げたとしても。
仕方ないね、と。
あっさり諦めてしまう。