第32章 変容
「舞台上からクラッカー打ちたくてさ。ヤオモモの片手が空きそうなタイミング見てたとこ。みんなー、轟帰ってこれたから一回休憩して、轟準備出来次第またミーティングしようぜ」
部屋着着替えてきちゃえよ、と切島が言う声に被って、バンド隊近くにいる瀬呂が「おかえりーモテ男!」と茶化してきた。
数名の生徒達がお帰り、と声をかけてくる中。
一番遠いドラムの近くに立っていたと爆豪は、轟に気づいていないようだった。
バンド隊も一度休憩することにしたらしく、それぞれが持ち場を離れる中、が珍しく爆豪に声をかけた。
『耳郎さん、爆豪くん、ドラム触らせて』
文化祭練習が始まってから、常に耳郎の楽器はリビングに保管されている。
バンド隊がいない時間帯は、他のクラスメイト達がたまに楽器に触れていた。
普段であれば、遠巻きに見ていたが、触ってみたいと言い出した。
「いいよ!」
「…」
さっき爆豪が常闇にキレたせいでへし折ってしまったドラムスティックの代わりに、支給された八百万製のドラムスティック。
爆豪からそのスティックを受け取り、が恐る恐るといった様子でシンバルに似たパーツを叩いた。
シャンシャンシャンシャンという頼りない音が部屋に響く。
は真剣な眼差しでドラムを見つめている。
『ありがとう、満足した』
「いやせめてもっと叩けや!!」
『叩いた。音が鳴った。面白かった』
「テメェの感性は赤ちゃんか!!」
半ば強引に爆豪にドラムに座らせられる。
ドラムスティックを持ったままのの両手を爆豪がガッと掴み、そのままドラムを打ち始めた。
練習で叩いているものよりも数倍速度が速いそのドラム捌きに、耳郎が「すご」と呟いた。
ドラムスティックさながら、雑な扱いを受けているは、なぜかきゃっきゃと珍しく楽しそうだ。
二人羽織のように彼女の背後から、彼女の両手を最速で振り回している爆豪は、悪代官のように悪意100%の笑みを浮かべている。
「おい爆豪、の腕壊れんだろ!」
「つーか速くて見えないけどさ、それ手繋いでね?え?何やってんの?え?爆豪?は??」
切島と上鳴がそれぞれコメントをするが、お構いなしというように、2人の演奏はしばらく続いた。