第32章 変容
ーーー文化祭まであと1週間
「文化祭って謎にカップル増えるよな」
ダンス隊の休憩時間。
ハイツアライアンス寮の玄関先。
ぽつり、と峰田が通り過ぎ行くカップル達を睨め付けながらぼやいた。
「文化祭準備期間にやたらとカップルが増えて大気汚染が進むこの現象に名前をつけたい」
「別にカップルが増えても大気汚染は発生しないだろうよ。ただおまえの胸が詰まって苦しいだけだよ。空気のせいにすんな」
「キャンプファイヤー現象」
「障子ちゃん、それ準備期間っていうより後夜祭」
「そんな現象、存在するのか…?聞いたことないぞ」
「飯田くん、たぶん存在しないと思うよ」
平日の放課後、それぞれのグループで集まって日夜文化祭練習に励むヒーロー候補生たち。
一踊りして、さぁもう一回踊ろうという小休憩の時間。
みんなより少し遅れて帰ってきた轟が、小走りで駆け寄ってきた。
「悪ぃ、遅くなった。通してくれ」
「誰が通すかぁあテメェ轟、真面目にやれや!!毎日毎日呼び出しに次ぐ呼び出し、今日の子は何年だ!?」
「三年だ。通せよ」
なぜか徒党を組んで道を阻んでくる峰田と砂藤、尾白に対し、息を切らした轟がムッとした。
「俺がサボりたくてサボってるわけじゃねぇ」
「それにしても、すごいね轟くん人気」
「ね!普段クールな轟くんが踊るってなったら、女子生徒殺到してたね!」
話題に花を咲かせる麗日と、葉隠の背後。
半ば強引に峰田を押し退けようとした轟が、峰田のもぎもぎの頭に触れてしまい、手がくっついてしまった。
「…。」
「……」
峰田と轟が見つめ合う。
一瞬、躊躇いはしたものの。
轟はブチっと峰田のもぎもぎの頭髪を一粒引きちぎり、玄関へ向かって走った。
「おぃいい!!ごめんぐらい言え!!!」
「悪い」
急いで帰ってきたとはいえ、時刻はすでに午後17時。
演出隊のミーティング開始時間から大幅に過ぎている。
「お、轟おかえりー。今日も大変だな」
「…遅れて悪かった。…みんなは?」
いつも演出隊が会議をしているリビングのテーブル席。
そこには、切島だけが座っていた。
「常闇ィ!!もっと音粒立たせろっつったろトリ頭!!!」
爆豪の暴言に気を取られ、轟がバンド隊の方を向くと、瀬呂、甲田、たちがバンド隊の傍にいることに気づいた。