第30章 ワクワクさん
『目立つの好きじゃないので』
「…ふふ、俺と一緒だ」
『好きじゃないですか?』
「うん。大衆の面前でパフォーマンスなんて…考えただけで…いたた…お腹いたくなってきた」
自身の想像で腹痛を引き起こした先輩を、『大丈夫ですか』とが真面目に心配する。
その二人の会話を遠巻きに見ていた波動が、通形に耳打ちした。
「さん、轟くんと文化祭まわるんだって。天喰くんかわいそう、ふられちゃったの」
「ふられちゃったの?でもそんな気まずい雰囲気に見えないけど」
「この前轟くんに食堂で牽制されて、そのまま帰ってきちゃったみたい」
「たっはー!甘酸っぺぇ!」
好き勝手にひそひそとコメントを述べている3年生たち。
そんな中、時計で現時刻を確認した緑谷が、ハッと声を発した。
「さん、そろそろ休憩時間半分になるけど昼ごはんどうする?」
『んー…エリちゃんはご飯持ってきてるんですか?』
「食堂を紹介しようとしてたよ!緑谷くんさんもどうだい!ついでのついでに環も!」
「いいねぇ!天喰くん休憩しといでよ」
「えッ」
ビシッと通形が親指を立てる。
波動がその隣で、同じく凛々しい顔で親指を立てた。
全寮制になってから、土日祝問わず雄英の食堂は稼働している。
さすがに平日ほどの賑わいはないが、ちらほらと生徒たちの姿が散見される食堂の一席に、緑谷たちは腰かけた。
「じゃあエリちゃん、食べたいもの俺と探しにいこうか!緑谷くんも行こう!」
「え?」
「さん環、席取られないように見張っといて!二人はあれだよね、今日はかつ丼の気分でしょ!?俺が取ってくるから座ってて!」
「ミリオ、席取られないようにって今日、混んでないだろ」
『今日はオムライスの気分です』
「そうだと思ったよね!いいからいいから!」
二人は座ってて!と。
なぜか強引に二人きりにされた天喰と。
(ミリオ…!あからさまなことはやめてほしいのに…!!)
この三年生たちの違和感に、が気づいていたらと思うと、天喰は仲良く昼食どころではなかった。
しかし、せっかく二人きり。
なんとしてでも結果を残したい。