第30章 ワクワクさん
ある備品室。
ミスコン出場用の写真撮影を行っていた波動のところに、壊理と二人の後輩を連れた通形が訪問しに来た。
「ねェねェ何でエリちゃんいるの?フシギ!何で何で!?楽しいねー」
「あっ、波動さん動かないで」
無人になった宙を狙って、盛大にカメラのフラッシュがたかれた。
まぶしかったのか、ぱちぱちと瞬きを繰り返す壊理のところに波動が舞い降りて、「きゃーかわいいねー」と彼女にハグをした。
「あ、ミリオ。緑谷く、えっ、さ…!」
『こんにちは、天喰先輩』
カメラマンを任されていた天喰が振り返り、の姿を見て、手元の大切なカメラを取り落としそうになった。
「こ、こんにちは…どうしたの、土曜日なのに」
『エリちゃんと校内見学をしてます』
「…そ、っか……」
こっちおいでー。緑谷くんもおいでー、と波動がと天喰の近くから人をはけさせようとする。
その様子を見ていた他のヒーロー科3年生たちも、視線を波動から天喰へ動かした後、にやにやとして遠巻きに様子を観察し始めた。
呆然としながらその全体図を俯瞰して眺めていた緑谷は。
ハッとした。
(この文化祭準備、独特の雰囲気…!知ってる、知ってるぞ…!これは、好きな子とペアで誰かが何かしてたら、急に周りの人がいなくなって生暖かい目で見守られるやつだ…!)
言いようのないこの現場を、何と言おう。
ちょうど良い言葉が見つからず、悶絶していた緑谷だったが、ある重要な情報に気が付いた。
(…待てよ。なんででも、今その雰囲気なんだ?先輩方のこの視線はなんだ…?なんで)
なんで、天喰先輩と、さんが。
そう考えて。
緑谷は、オーバーホールと戦った際、天喰が敵を一人で足止めすると言って、緑谷達を先へ行かせた場面を思い出した。
ファットガムすら躊躇していたあの土壇場。
天喰を後押ししたのはだった。
「さん、ミスコン出ないんだね。立候補者リストになかった」
『はい。ついさっき、ミスコンって言葉を知りました』
「え、そうなの?もし知ってたら出てた?」
『いいえ』
「…うん、そんな気がする」