第30章 ワクワクさん
『ミスコンってなあに』
「それぞれのクラスの中で一番素敵な女性を話し合って、立候補者を決めるんだ。文化祭の日にクラスの代表者同士でコンテストをして、誰が一番ビューティフルなのか、投票で決めるんだ」
『それと私が何の関係があるの』
「誰かがさんがミスコンに出るって言ってたのかな?」
「ん?出ないのかい?」
「先生、ミスコンの事なんて一言も言ってなかった…」
が振り返り、しゃべり続ける物間をじっと見つめる。
途端に、物間の口にシャッターが下りたかのように彼が閉口した。
B組の泡瀬、鉄哲が顔を見合わせ、急に硬直して黙り込んでしまった物間の背を見つめた。
「A組は転入生がミスコンに出るって、なんでそんな話になったっけ」
「物間が言ってたからだろ。「転入生だろうから」っつー話だったな」
「あー、決まってたわけじゃねぇんだ。やけに自信満々に言うから決まったんだと思ってた」
『物間くんって誰?』
「「目の前のそいつだよ」」
その場にいた生徒たちの頭の中に、先ほどの通形の解説がフラッシュバックする。
ーーーそれぞれのクラスの中で一番素敵な女性を話し合って、立候補者を決めるんだ
(物間終わった)
(終わったな物間)
(大好きかよ)
(環、前途多難だなぁ)
(え、物間くんもしかして…)
当事者たちを除く全員が全員、この無言の空気に耐えがたい感覚を覚えながらも、必死に笑いを押し殺す。
に見つめられ、一切の無駄話をしなくなってしまった物間に助け船を出すかのように、全く事態を読み込めていない壊理が、のスカートのすそを引っ張った。
「あのね、おトイレいきたい」
『…うん、いこっか』
メドゥーサのように、なぜか物間から一切視線を外さなかった。
壊理の申告を聞き、彼女はふいっと彼に背を向け、通形と緑谷に声をかけた。
『おトイレに行きます』
「OK!あっミスコンといえばそうだ!あの人も今年は気合入ってるよ!去年の準グランプリ波動ねじれさんだよね!!」
立ち去っていく4人の背が遠ざかって、見えなくなった瞬間。
物間が息を吹き返し、その場に崩れ落ちた。
「名前知ってもらえた……!嬉しい…!」
「ポジティブすぎんだろ」