第30章 ワクワクさん
言葉をつっかえながら。
耳まで顔を赤くしながら。
天喰はに問いかける。
『学園祭?一緒に回るって?』
「え…お祭り、みたいだから、見て回るかなと思ったんだけど…それも、二人、なのかなって」
『…ん?そんなにたくさん出店が出るんですね』
へぇ、そうなんだ、とが的外れな返答をする。
様子を黙って見ていた轟は、早々に一人前の蕎麦を食べ終わり、箸を置いた。
「回ります」
「…え?」
「俺と、と。一緒に回るんで。すいません」
その場の空気が一瞬で凍り付き、三人の周りに座っていた他生徒たちは身震いをした。
天喰が轟の発した冷気を感じ取り、ごくりと息を飲んだ。
「…そ、うなんだ」
「、次ヒーロー基礎学だ。早く行こう」
『え、うん…えっと、天喰先輩、また』
「…うん、また」
急に席を立った轟の後を、が慌てて追いかける。
教室へと向かう途中、が轟に問いかけた。
『私、あんまりよくわかってない。お店を食べ歩くってこと?』
「…それでもいいし、見てみたいところがあれば見に行けばいいと思う」
『…んー?』
「自由時間、あるだろ。出し物終わった後。その時間、一緒にいようってことだ」
『わかった』
やけにあっさり、コクリと頷いたを横目で見て、轟がフッと笑った。
「おまえ、考えるのやめただろ」
『え…何となくわかったよ。でも、私たち出し物も演出チームで、自由時間も一緒なら、ずっと一緒じゃない?』
「嫌か?」
『嫌じゃないよ。でも轟くんは人気だから、他の子といなくていいの?』
「それ、どういう意味だ」
『緑谷くんとか、飯田くんとか』
「…別にいいだろ。俺が誰といようと」
『そっか、ありがとう』
「…。」
いつも通りだ、と。
が真剣な顔をしたまま、少しうれしそうな声色でそんなことを言う。
「…そうだな」
あまりにも普段通りの彼女の横顔。
けれど普段よりも明らかに、高揚した彼女の声色を聞いて。
(…まぁいいか)
なんて。
轟は一人、納得していた。