第30章 ワクワクさん
昼休み、食堂の一席。
「それで、最近毎朝早くにでかけてんのか」
『うん。心操くんと取っ組み合いしてる』
それ、取っ組み合いじゃなくて組手だろ、と。
轟が箸で蕎麦を一房掴んでいた手を止め、向かいに座るの言葉を訂正した。
『昔に戻ったみたい。ただ翼と格闘技で戦う。新しい個性は使わない。弱くなった』
「おまえ、格闘技だけでも強ぇだろ。…あの鳥型のカルラの個性は…飛行する他に何ができるんだ。人に向けて白炎を出すことはできるのか」
『相澤先生と距離を取って試してみた。なんだろう、あの…エンデヴァーの…プロミス…プロ…』
「………」
『プロミス何とかみたいになりそうになって、先生にすぐ消してもらったからどれぐらいの火力かわからない。…6月までは、確実に火力をコントロールできた。なのにできなくなった』
「6月に何があったんだ?」
『…何もないよ』
何も、と。
は言い聞かせるように呟いて、自分の目の前に置いてある唐揚げを一口頬張った。
「お、おおお…おぉお……」
『…?』
突如、の背後から怨霊のような声が聞こえてきた。
轟とがその声の主に視線を向けると、に声をかけようとしていた天喰が「ヒッ!?」と叫んだ。
「お……おは…」
『天喰先輩。おはようございます』
「お…おはよう…。はぁ…」
また、やってしまった、と。
天喰が背を向けてしゃがみ込み、どんよりと自身の頭上にマイナスオーラを発生させる。
『どうしたんですか』
「あ…えっと…見かけたから、挨拶ぐらいできればと思ったんだけど…食事中に邪魔をしてすまない、忘れてくれ。俺の存在ごとなかったものとして処理してくれ」
『いつも遠形先輩と一緒なのに、一人なの珍しいですね』
「あぁ、ミリオは今休学中…だから」
『あー。そっか。すみません、気づかず』
「いや、全然いいんだ。…二人はいつも、その…一緒なんだね」
二人、という言葉を発する際、天喰の視線が轟に注がれる。
轟は天喰との会話を黙って聞いていたが、ぺこ、と軽く天喰へ会釈を返した。
『はい、一緒です』
「ウッ…そ、そうなんだ。……が……」
『……………が?』
「が、っくえんさいも、一緒に回るの…?」