第29章 分岐点
緑谷の提案を聞き、相澤が根津校長に掛け合うと申し出た。
「ぶんかさい?」
昨日のと同じように、聞きなじみのない言葉をつぶやいている壊理を見て、通形が補足した。
「俺たちの通う学校で行うお祭りさ!学校中の人が学校中の人に楽しんでもらえるよう出し物をしたり、食べ物を出したり…あ!」
リンゴ!リンゴアメとか出るかも!
という通形の発言に、一瞬の身体が揺れた。
「リンゴアメ…?」
『……りんごをね、飴でくるんで…あまいのを、甘くしたやつ』
「リンゴをあろうことかさらに甘くしちゃったスイーツさ!」
「さらに…」
たらり、と。
壊理の口から、よだれが垂れそうになる。
その様子を見て、相澤が善は急げというように、通信機器で学校と連絡を取り始めた。
「…私、考えてたの。助けてくれた時の…助けてくれた人のこと…ルミリオンさんたちのこと」
もっと知りたいなって、考えてたの。
そう口にする少女の瞳は、少しだけ夕方の陽の光が差し込んでいるせいか、あの地下で称えていた瞳の色とは大きく様変わりしている。
そのあと。
面会時間を目一杯使って、壊理と緑谷、通形は学校の話をし続けた。
は。
りんごを剥き終わってから、やはり出入口付近に戻り、三人が話をする様子をぼんやり見ているだけだった。
「子どもは苦手か」
帰りの車の中。
運転席に座る相澤が、助手席のへ話題を振ってきた。
後部座席に座っている通形と、緑谷もその二人の会話に興味を持ったのか、マシンガントークをやめての返事を待っている。
『……怖い思いさせたと思うので』
「エリちゃん、おまえに一番関心を寄せてる」
『……印象深くはあるでしょうね』
「違う。誰も、あの場で。おまえ以外、治崎に歯が立たなかった」
『…。』
「エリちゃんもわかっていた。勝てるわけがないって。ただ、おまえが、治崎に一撃を与えた。それが治崎の死を意味する攻撃であったとしてもだ」