第29章 分岐点
「…こんにちは」
壊理は、案外。
に対して、怯えた様子を見せなかった。
『…あー。です。ヒーロー名はフェニックス。……えーと…りんご、剥くからね』
拍子抜けしたのか、が強張らせていた身体の緊張を一瞬ほどいた。
「あの…ルミリオンさん、デクさん、フェニックスさん…あと」
めがねをしていた、あの人。
彼女のその言葉が、の頭の中に一人のヒーローを思い起こさせる。
がりんごを剥いていた手を一瞬だけ止めて。
またすぐに作業を再開した。
「皆、私のせいでひどいケガを…私のせいで苦しい思いさせてごめんなさい。私の、私のせいでルミリオンさんは力を失くして…!」
次第に涙ぐんでいく少女に向かって、通形が明るい声を発した。
「エリちゃん!苦しい思いしたなんて思ってる人はいない。皆こう思ってる!「エリちゃんが無事で良かった」って!」
皆、君の笑顔が見たくて戦ったんだよ。
その言葉を聞いて。
壊理は、きょとんとしたあと、自分の顔にぐぐぐと力を込めて、両手で自分の頬を引っ張り始めた。
「ごめんなさい…笑顔ってどうやればいいのか」
皆。
君の。
笑顔が。
その要望を耳にして、無理やりに笑ってみせようとして、笑うことができずにいる目の前の少女の姿に、通形と、緑谷は愕然とした。
急に黙り込んでしまう二人を見て、一層壊理は、焦って自分の両頬を力いっぱい引っ張り続ける。
『いいよ』
その小さな両手を、の両手が優しく包み込んだ。
赤くなってしまった少女の頬から、ゆっくりとは手を引き離し。
陽の光のように、あたたかく微笑みかけた。
『無理やり笑わなくて大丈夫。君が楽しい時に笑えたら、それでいいからね』
壊理がじっとの瞳をのぞき込み、小さくうなずいた。
リンゴを食べよう、とが壊理にウサギ型のリンゴを手渡すのを、呆けてみていた緑谷が、ハッとして振り返った。
「相澤先生、エリちゃん一日だけでも外出できないですか…?」
その言葉を背中で聞きながら。
は、あぁそうか、と緑谷の思惑を察知した。
「『文化祭、エリちゃんも来れませんか!?』」