第28章 学生気分
『付き合ってない』
「じゃあじゃあ、付き合いたい?」
直球な芦戸の質問に、なぜか傍で聞いていた麗日がボンッと音を立てて赤面する。
『…付き合ったら、何か変わるの?』
「え?」
『今も一緒にいる』
傍にいてくれる、と呟く彼女の言葉を聞き、頭を洗っていた耳郎、八百万が急ぎ泡を洗い流し、湯船に戻ってきた。
「えっ、何何?どういう意味…?」
「さん、後学のために聞かせてくださいまし!」
『え?』
なぜかクラス中の女子に取り囲まれてしまったは、注意深く全員の顔色を観察し、言葉を選んだ。
『一緒にいたいから付き合うんじゃないの?』
「うんうんそれで!?」
『だから、もう普段から一緒にいるから』
付き合いたくはないよ、と。
静まり返った女子風呂と、男子風呂に。
の声がこだまする。
一瞬の静寂の後。
ぴちょん、と。
轟の顎先から滴り落ちた水滴が、湯船の底に吸い込まれていった。
「……っあー…今日の晩飯なにかなー」
「蕎麦な気分だな!なっ緑谷!」
「えっ、う、うん!蕎麦!蕎麦にしよう、僕調理当番だから任せて!」
「だーはっはっはっ!!ざまあみろ轟!!」
「峰田空気読め!!」
「悪魔かよ!!」
「…何がざまあなんだよ。もうあがる」
壁の向こうから聞こえてくる男子たちのフォローの声を聞き、芦戸が「げっ」と顔をひきつらせた。
「聞き耳立てるな男子!!もー、轟聞こえたっぽいじゃん!」
「んだよ芦戸!!聞かれたくない話すんな!!」
ぎゃあぎゃあと壁を隔てて言い争いをする女子数名と、男子数名。
蛙水がスイーっと湯船を移動し、の近くへ移動してきて、話しかけてきた。
「ちゃん、轟ちゃんのこと」
『うん、なぁに』
「轟ちゃんに彼女ができちゃったら、一緒にいられないのよ」
『……うん?』
「今は二人ともそうじゃないからいいんだろうけど」
文化祭だしね、と。
意味深なことを口にして、蛙水は、何を言おうとしているのか察している様子の耳郎と視線を合わせ、二人だけでうんうんと頷いた。
『文化祭が、どうしたの?』