第27章 青き恋心
夜景を見たいと君が言った。
高い高い鉄塔の上まで飛んで、君と二人、夜の街灯りを見下ろした。
「これからどうするの」
遠くの曇天で、低く雷の音が鳴っている。
今夜中に、天気は次第に崩れてくるだろう。
「俺と暮らそうよ。高校、卒業してからで構わないから」
『そんな迷惑はかけられないよ』
「迷惑なんかじゃないさ。君と一緒にいたい」
俺たち以外、誰もいない二人きりの鉄塔の上。
二人で、足場のふちに腰掛けて。
視線を合わせることなく会話した。
『無理だよ』
「どうして」
『信じきれていないでしょう?』
私を、と。
君が髪を耳に掛け直しながら、呟いた。
「…信じてる」
『何年一緒にいたと思っているの』
「信じてるよ。君は敵に手を貸したりしない」
『…。』
白炎をその目にたぎらせて。
君は俺を見据えた。
まるで値踏みされているかのような数秒間。
俺は淡く光るその瞳に視線を奪われて、閉口する。
『…嘘つき』
あまりにもあっけなく見破られて。
俺は矢継ぎ早に言葉を返した。
「嘘じゃない。けど、わかるだろ。個性が変容し始めてからの君は何をするにも度が過ぎている。戦闘中、常に平常心じゃない。何を考えているのか教えて欲しい」
『度が過ぎないように、って考えてる。好きで暴れてる訳じゃない』
「、俺は「ホークス」だけど、君とは昔のように話をしていたい」
友達に戻りたい。
そう言うと。
君はまた視線を街灯りに落とし、ぽつり、と呟いた。
『マスキュラーも、トガヒミコも、荼毘も知らない。覚えてない。覚えていないものを話せない』
「ッ」
『鷹見くん』
君は、両手で顔を覆い。
声を発した。
『…何かを忘れてるのはわかってる。でも思い出せない。だから話せない。これ以上聞かないでほしい。君と出会う前の「自分」のこと、思い出すのが怖い。思い出してしまったら』
君とはもう一緒にいられない。
君は、数年ぶりに俺の名前を呼んだ。
ホークスではない、「俺」だから、君は話した。
知らない、覚えていない。
そう繰り返す君の供述を、俺は。
「ーーーー…わかったよ」
一言一句、記憶して。
公安へ、報告した。