第22章 日常
ーーー私に
ーーー普通のことができるかなぁ
自信なさげに、自嘲気味に。
そう言っていたさんのこと。
たかが、一先輩の立場で、もっと知りたいと思うのは傲慢だろうか。
たかが、花の水やり一つに発した言葉を。
ここまで、気にする必要などないのだろうか。
「ーーーおまえたちの境遇も、怒りも哀しみも俺にはわからないが…その固い絆とやらは俺にもわかる!」
その胸の内を知ってほしいなんて。
彼女は思っちゃいないだろう。
その心の中を知りたいなんて。
そんなの俺のエゴだろう。
不思議な縁だ。
手放し難い関係性だ。
彼女を好きだなんて大それたことは言わない。
そんな不相応な望みは抱いちゃいない。
俺なんか、彼女には不釣り合い。
だって
『あ、天喰先輩。こんにちは』
『おはようございます。今日は良い天気ですねー』
『お疲れ様です』
彼女を校舎の片隅で見かけるたびに。
声をかけようと思うんだ。
やった、会えた、なんて。
醜悪な感情を胸にしておきながら、俺は。
遠目に見るだけでも、まるで。
向日葵のように眩しい君の立ち姿。
いつも、いつも。
声をかけられないまま、その場に立ち尽くす。
結局、いつも君から声をかけられる。
おはよう、こんにちは、と。
俺が口にしやすい、ハードルの低い言葉を選んで君が話しかけてきてくれる。
どうしようもない意気地なし。
これ以上を望む権利なんて、俺にはない。
「、行こう」
『あ、待って轟くん。じゃあ先輩、また』
そんな権利、俺にはないのに。
彼女といつも一緒にいる、轟くんに少しだけ。
少しだけ、毎日。
勝手に薄暗い感情を抱いたりして。
だから、珍しく。
彼がいない今日は。
俺が、彼女のそばにいられると
そう、思ったのに
(手こずりすぎた…!皆はちゃんと進めているんだろうか…)
俺も、行かなきゃと。
敵を捕縛し、そう思考したのもつかの間。
戦闘時間、計11分。
三人の敵を撃破し、捕縛した天喰は。
皆を追いかけようと足を踏み出しーーーー
その場で、意識を手放した。