第22章 日常
校庭の片隅。
園芸部が管理している、家庭菜園用のビニールハウスで、彼女専用の鉢植えを調達して、スコップで土を詰めた。
その日の放課後は。
彼女を1時間近く連れ回してしまった。
『掃除も得意なんですか?』
『毎日水をやることは簡単ですか?』
『料理も得意なんですね。すごいなぁ』
作業の後半は、ほとんど。
彼女に質問攻めにあいながら、作業をしていた気がする。
「…い、いや…普通」
『へぇ、すごいですね』
「すごく…は…ないよ。普通だって」
『普通のことができるのはすごいです』
「どんな絡め手!?ほめないで…!穴に逃げ込みたくなる」
『そのスコップで掘るんですか?それはそれで面白そうですね』
「酷い…!家事も、掃除も、親が忙しいから…助け合うのは、普通のことだ…!」
そう言った俺の声を聞きながら。
彼女は、鉢植えの土にゆっくりと、種を植えた。
そして、呟いた。
『…育てられるかなぁ』
「…育てるの、初めてって言ってたね」
『…はい』
そして、珍しく、イエス、ノーの返答の後。
彼女はぽつりと、一言だけ。
感情を吐露した。
『…私に』
『普通のことができるかなぁ』
こんな時。
いつも、俺は考えてしまう。
ミリオなら、どうするのかなって。
落ち込んでいる人や。
自分への自信を失った人に、俺は。
かける言葉が見つからないから。
どう言ってあげたらいいのか、わからないから。
ミリオだったら。
大丈夫。
きっと大丈夫だよ。
できるよ。
そう、簡単に言ってあげられる。
けれど、俺は「わかりすぎて」しまうから。
言ってあげられない。
そんな、他人に自信を与えてあげられるような人間じゃないから。
君のこと、何も知らないから。
今日、出会ったばかりのように感じる君のこと。
大丈夫なんて、言ってあげられない。
「俺、は…」
できるよ、なんて言わない。
できなかったとき。
君はきっと、心の底から自分を嫌いになる。
また嫌いになってしまう。
「…できることしか、しない。卑屈だから…自分に自信がないから。だからその代わり、責任をもつようにしてる。できると思ったことは、最後までやりきる。何が何でも」