第22章 日常
美化委員の仕事は、普通の仕事をこなすだけだ。
毎日、教室の鉢植えに水をやる。
美化週間があれば、クラスの人たちと一緒に学内の指定された場所の掃除をする。
「…それだけ」
『…毎日?』
「うん、花は毎日水をやらないと」
『へぇ~』
各教室には、美化委員の人数分、花の種が植えてある鉢植えが設置されている。
美化委員が二人の教室は、鉢植えが二つ。
雄英は必ず、生徒に委員会の参加を義務づけているから、誰しも何らかの委員になる。
人数の関係で、美化委員が三人になったら、鉢植えは三つ。
(…あ、そうか)
さんにも、鉢植えを渡さないと。
そう思い立って、俺はまた彼女を先導しながら、廊下を歩く。
「…花は、育てたことはある?」
不思議と。
彼女への質問が思いつくようになった。
少しは緊張もほぐれているし、打ち解けてきたからだろうか。
『いえ、全く』
「…掃除が好きなのかな」
『いいえ』
「…………」
(……あれ…)
何かを聞けば。
イエス、ノーとしか答えない彼女。
(……もしや、うざがられているのでは…!?身の程も知らず、話しかけたから…!!)
こちらからの質問を、シャットアウトするかのように。
彼女は端的に返事を返す。
絶対に嫌われた。
そう思い込み、絶望していたら、あろうことか彼女の方から今度は話題を振ってきた。
『天喰先輩はなぜですか?』
「…えっっ。大丈夫だよ、俺みたいなゴミと無理に話さなくても」
『ゴミ?無理に話してはいません』
「気を使ってくれなくても…!」
『気は使っていますが』
「やっぱり!辛い、帰りたい…!」
『先輩なので。なんで美化委員なんですか?花や、掃除が好きですか?』
俺を嫌っている彼女は、気を使って話題を提示してくれた。
非常に申し訳なくなりながら、せっかく後輩が提示してくれた話題に応えようと思った。
「…消去法だよ。俺みたいな陰キャは、学級委員長なんてできないし、体育委員になってみんなの前でラジオ体操なんてできないし、文化委員になってイベントを盛り上げることもできない」
図書委員になって、仕事を覚えられる自信がない。
放送委員になって、機材を扱ったりできる気がしない。
「掃除なら…家でやってるから、できると思ったんだ。花に水をやる程度のことなら、俺にもできる」