第19章 二面性
「忘れ物した甲斐があったけど、危ない目に遭わせた。ごめん」
『え…もしかしてわざと?公印なんて大切なものをわざわざ忘れていかなくても、言ってくれれば会いに来るよ』
「ふーん。へー、そうですかー」
『何それ。何で拗ねるの?』
「言わないと会いに来ないんだ?って感じ。鳥仲間でしょ、言わなくたって飛んできてよ」
『あなたほどの速度は、長時間出せません』
「あー…なんかホッとしたせいで眠くなってきた…不貞寝するから、寿司が届いたら起こして」
『えっ、この体勢で寝るの?』
マイペースな彼は、を後ろから抱いたまま、その肩に顔を埋めて。
目を閉じる手前で、ため息まじりに呟いた。
「…何もなくて、良かった」
はその言葉を聞いて。
彼の頭が乗せられている右肩の方へ、少しだけ振り向いた。
そして遠慮がちに。
彼の頭を優しく撫でた。
『……助けてくれてありがとう』
「どーいたしましてー」
荼毘と遭遇した時。
真っ先にホークスを呼ばなければと思った。
しかし思い返してみれば、あまりにひどい判断ミスだ。
彼は現在、公安による「敵連合」潜入捜査に尽力しており、連合の味方をしなければいけない立場にいる。
そのため構成員を捕まえるだなんて最悪の事態は、最も避けなくてはいけないことだった。
私がすべきだったのは、荼毘が私を知らなかったように、私も荼毘のことを、知らないふりを突き通すことだ。
けれど睡眠薬を打たれたせいか、自分が彼と何を話したのか一部記憶すらできていない現状では、そんな演技ができていたのかは疑わしい。
(…情けない)
同じ公安仲間、とホークスは言うけれど。
自分は彼ほど大きな功績を残してはいないし、組織に信用されてもいない。
経験も劣り、個性も育つどころか、最近は目も当てられない酷いミスばかりしでかしている。
次期オールマイトに、だなんて期待されていたのは遠い昔の話。
組織の大人達はもう、私の将来に期待などしていない。
唯一人、鷹見くんを除いては。
『…寝顔、昔と変わらないね』
「…キミも、変わってないよ。ばり可愛いか」
『あれ、起きてたの?』
「…またスルー…今度こそ不貞寝してやる」