第19章 二面性
今日は泊まっていくでしょ?
そう提案したホークスがカーテンを開けて、コツコツと、窓ガラスを指で叩いた。
土砂降りの雨どころか、雷雨へと変貌している外の状況を眺めて、は『お邪魔じゃなければ、お願いします』と返事を返した。
ホークスは彼女の前で朗らかな笑みを浮かべたまま、ガッツポーズをして、寿司でもとろーよ!と声を弾ませた。
(寿司…!)
の胸の内が、ほんの少しだけ晴れやかになった。
彼から渡されたバスタオルと借りた部屋着を手に持って、バスルームへ移動しようとした彼女の背に、彼がまた声をかけた。
「あーそうそう、半身浴ぐらいの湯量だから」
『…ん?』
「あがったら声かけて。背中、ガーゼ貼り直すから」
あまり長湯しちゃダメだよ。
ホークスにそう言われて、はようやく自分の背と、片目の上に傷があることを思い出した。
(…あれ?痛くない)
半身浴をしても、身体を屈めたりしてみても。
全くと言っていいほど痛みがない。
まるで痛み止めを飲んだ直後のようだ。
気を失っていたのになぜ?
『お風呂、ありがとう。もしかして薬飲ませてくれたのかな』
バスルームから出てすぐ、ホークスに確認してみると。
そうだよー、と彼は軽く返事を返して、に手招きをした。
『寝てたのに?』
「そう」
『…錠剤の薬だったよね』
「鞄の小さなポケットに入ってたやつでしょ?合ってる合ってる、ダイジョブ」
『寝てる人って薬飲むの?』
「んー。…さぁねー…」
先ほどのソファの上での背中の傷を手当てしながら、ホークスは曖昧な返答を続ける。
はそのはぐらかすような彼の返答に違和感を覚えながらも、追求するのをやめた。
『…ありがとう』
「いえいえ何も。ごちそうさまでした」
『どういたしましてじゃなくて?ごちそうさまでしたって何』
「いえいえ何も。それより俺の部屋着、やっぱりサイズ大きすぎるなぁ。動きづらくない?」
『え。…大丈夫、ありがとう』
「今日」
ホークスは彼女の背中の傷に触れないよう注意しながら、そっと、後ろからを抱きしめて、その小さな肩に自身の顎を乗せ、囁いた。
「会いに来てくれて嬉しかったよ。すっごく嬉しかった」