第19章 二面性
荼毘は、捕まったのか?
は一切、そのことについてホークスに問いかけるようなことはしなかった。
公安組織の一員であり、とある任務を任されているホークスが荼毘を捕らえることなどしない、そのことを知っていたからだ。
「荼毘に俺とキミは幼馴染だと話した。同じ公安仲間です、とは言えないからね。幼馴染なのは本当のことだけど、そこにつけ込まれたりしないよう、キミも危なっかしいことはしないようにね」
真面目な表情を崩さないまま。
ホークスは彼女の傍を離れて、部屋の入り口近くの壁に近寄り、パチリと照明のボタンを押した。
一人暮らしにしては広すぎるリビングフロアが照らされ、はその一角に配置されているソファの上から足を下ろして、ホークスの方へと向き直った。
コーヒー、飲む?と、彼は彼女に背を向けたまま問いかけて、その返事を待つことなく、二人分のマグカップをキッチンカウンターへと置いた。
『……組織に言わないつもりなの?』
「何を?」
『私が荼毘と接触したことを』
「言わない」
ホークスはガラス容器を傾けて、ゆっくりと流れていく黒々としたコーヒーを見つめたまま、口元だけ動かしてそう答えた。
「そんなことをしたら疑われて、今度こそキミは敵連合が解体されるまで陽の光を拝むことはできない」
は少し湿った3人がけソファの端に寄って、ホークスが隣へ来るのを待った。
彼は香り立つマグカップを一つ彼女に渡すと、わざわざ彼女のすぐ隣に腰を下ろし、そこでようやく視線をへと戻した。
「キミが敵連合の一員だとするなら、荼毘が睡眠薬まで使って拉致しようとした辻褄が合わない。キミが内通者だとするなら、神野事件の奇襲作戦を知っていて、それでも敵連合に奇襲があることを教えなかったことになる。もちろんキミが裏切っている可能性は0じゃないから、組織の上の人間はその可能性を危惧して、キミを排除したがるだろう。けど、俺個人としてはキミが裏切り者だとは思わないよ」
『…どうして?』
ホークスはカラカラと笑い、の頭を撫でた。
「キミのことは俺が誰よりも知ってるから」
はほんの少しだけ目を潤ませて、頷いた。
『…ありがと』
「どういたしましてー。今風呂いれてるから、それ飲んだら入っておいで」