第2章 異なる日常
「ごめん、轟くん、引越しの途中なのに」
「いや、いいよ。、これ待ってろ」
『…ありがとう…』
赤く腫れ上がったの足の甲。
入居して日が浅いハイツアライアンスには、湿布も、湿布がわりになる保冷剤も、熱冷まし用の冷却シートも備わってはいなかった。
そのため緑谷が急遽、轟に救護を要請し、現在に至る。
轟は緑谷から状況を聞くと、すぐに氷結で氷を生み出した。
しかし、形がデコボコとしている上、保冷剤として使うには大きすぎてしまったため、結局、冷蔵庫に備え付けられている製氷トレーに水を張り、それを凍らせ、ハンドタオルに巻いて、使用することにしたのだった。
「冷蔵庫の氷って、水を補給する必要があるんだ…お母さん、いつもやっててくれたんだなぁ。知らなかった」
冷蔵庫の中には、常に氷があるものだ。
そう考えている実家生の多くは、氷がなくなるたび、製氷用の水を冷蔵庫に補給してくれている誰かの存在を忘れがちである。
「常に型を持ち歩いていれば、こんなふうにも使えんだな」
クッキーの型でも持ち歩いておくか、と呟く轟と、それいいね!とすぐさま後押しする緑谷を交互に眺め、は申し訳なさそうに呟いた。
『迷惑かけてごめんなさい…』
「かぼちゃで遊んでたのか」
『ううん、遊んではいないんだ。切り始めようとしたら、手が滑って…。部屋作りに時間かかるだろうから、出来るところまで準備しておきたかった』
部屋作りって、意外と体力使うし、お腹すくだろうから、と。
轟はその言葉を聞き、はみんなよりひと足先に、この広い寮での生活を始めていたのだということと、今夜は焼肉だ!と声高らかに提案していた切島のことを思い出した。
「知らねぇ間に気遣ってくれてたんだな」
「ありがとう、さん!」
「の割に、出会い頭に威嚇してきたのはなんでだ」
『それは、キミたちが先生の指示を聞かないからだよ。先生の話はもっとちゃんと聞くべきだ』
「…そうか、悪ぃ」
「あ、やっぱり…注意してくれてたんだよね」
『そうだよ、不良少年達』
不良、少年。
怪我に事件、規則違反。
二人の頭に思い起こされるのは、身に覚えがありすぎる、そんな血生臭い青春の1ページ。
緑谷と轟は顔を見合わせ、思った。
((…反論、できない))