第18章 西へ東へ
「なんか焦げ臭ぇな。お前か?」
『…え…』
足をもつれさせて、倒れ込んできたの肩を支えたまま、通りすがりのその男が呟いた。
深く被ったフードの奥に隠されたツギハギだらけのその口元を見上げて、は目を丸くした。
『…ッ……あの…すみません、ぶつかってしまって』
「皮膚が焼けた臭いがする」
男はそう言って口元だけで笑った。
ゾッとして離れようとしたの腕を引き寄せて。
彼は、彼女の耳元で囁いた。
「お前、さては誰かを燃やしたな?」
『ーーーーー。』
否定も肯定もしないまま。
は呼吸を忘れて、間近にある男の不気味な縫い目だらけの顔を見つめた。
「綺麗な顔して残忍なんだな。…それはさておき、今仲間探しをしてるんだ。お前も、暇ならうちへ来ないか?」
『……何の話ですか?昔知らない相手について行くなって大人に教わったので』
「昔のことなんか忘れちまえよ、俺たちの、これからの話をしてるんだ」
特徴的なツギハギの肌に、黒い短髪、高身長。
声年齢も「彼」と合致する。
は話し相手の外見的特徴をじっと観察し、頭の中で彼の名前を呟いた。
(…敵連合の荼毘。福岡に潜伏していたなんて)
敵連合は西へ東へと散ったまま、各地でちらばって潜伏しているという話は本当だったのだろうか。
彼に関するありとあらゆる情報を頭の中で反芻しながら、は、彼の話に耳を傾けようとする。
『……っ……は……』
「やけに息が荒いな。もしかして焦げてんのはお前自身か?」
『……焦げてない』
「まぁ聞けよ。悪い話じゃない。お前、きっとこっち側でやっていけるよ」
やや早口になりながら、荼毘らしき男はが腰掛けていたベンチに腰を深く据えて、彼女に手招きをした。
『…私、急いでいるので』
「立ってるのもやっとって面してるだろ。座れよ」
出逢ったのも何かの縁だ。
荼毘はそう言って、一体何が面白いのか、ははは、と上機嫌に笑った。