第18章 西へ東へ
補習初日は、午前のデータ取りを兼ねた戦闘訓練、午後の座学で終了した。
再試験をチラつかせた戦闘訓練のせいで、負傷者が多数出ており、明日は休養日として設定されている。
日がすっかり落ちた土曜日の夜。
は、彼に忘れ物を返すため、博多を目指していた。
<終点ーーー終点です>
新幹線のアナウンスで、うたた寝をしていたはうっすらと目を開いた。
ボストンバックを肩にかけて、深く息を吸い、痛みに耐えながら座席を立った。
(……事務所、まだ誰かいるのかな…)
駅構内をとぼとぼと歩き、携帯を取り出す。
時刻は午後20時。
人通りはまだ少なくない。
(……この時間に電話したら迷惑かな)
携帯画面に映る彼の連絡先を眺めながら、駅から出た。
痛み止めが切れてきたのか、背中がじんじんと痛み出してくる。
は額の冷や汗を上着の袖口で拭いながら、自販機に近づき、水を購入した。
手近なベンチに腰掛けて、医師から渡された痛み止めを噛み砕いて水と一緒に飲み込んだ。
すると、その時片手に持っていた携帯から短い通知音が鳴った。
『…轟くん』
彼から「怪我、大丈夫か?酷くなったりしてねぇか?」というメッセージが届いた。
の怪我に気付いてから、轟は心配が収まらないどころか「午後は休んだ方がいい」「明日も明後日も、怪我が治るまでじっとしてろ」と、の代わりに運営に早退欠席を申告する勢いだった。
それを何とか説得して、最後まで講習を受けた帰りのバスの中で、このまま遠出するという話をした時には、轟は珍しくムッとした顔をして、「勝手にしろよ」と、それっきり話さなくなってしまっていた。
『…優しいな』
<ありがとう、酷くなったりはしてないよ>
そう短文を打ち込んで、彼に返信した。
(……どうしよう)
そう、返事はしたものの。
身体がとても熱い。
背中もひどく痛む。
痛み止めは飲んだものの、一歩遅かった。
歩く度に背中が服に擦れて痛む。
気を張ってどうにか痛みを誤魔化していたのに、下手に眠ったせいだ。
(…電話してみようかな。…いや、怪我で動けないとかそれこそ迷惑だろうし…)
公印は明日届けよう。
そう決めて立ち上がった時。
ふらつき、通行人にぶつかった。
『…っすみませ…』