第16章 なりたかったもの
普段優等生面をしているくせに。
彼女は、さも当たり前かのように物騒な言い訳をしてみせる。
手負いの相手が一番恐ろしいと授業で聞いたが、態度まであからさまに豹変するものだろうか?
普段どれだけ猫を被っていやがるんだと言ってやりたい気持ちが、爆豪の中に沸沸と湧き上がる。
「考えがクソすぎて引くわ」
『えぇ?…キミも似たようなものだよね?どっちかっていうと私の方が、普段はちゃんとしてる。私はちょっと頭に血が昇りやすいだけ』
「黙れやくたばれ」
『くたばらない。それに私はまだ降参だとは言わないよ。私の個性は』
ドッ、という衝撃を受けて。
突如、爆豪の身体が遥か上空へ弾き飛ばされた。
仰向けに倒れていたは跳び起きて、宙に浮く爆豪の身体を再度自分の視界に捉えた。
『掌の向く先じゃなくても、爆破は起こせるから』
「…ハッ…何度やっても同じだっつーンだよ!!」
身を裂くような身体の痛みを抱えながら、爆豪はまだ闘気をその眼に宿し、爛々とした眼光を絶やさない。
キャパオーバーの攻撃を繰り返しているはずの爆豪が、衰弱するどころか、の超爆風に迫るような高火力の爆破を繰り出してくるせいで、身体的ダメージばかり蓄積されていく戦いは、いつまで経っても終わってくれない。
高速化していく乱打戦の最中。
はぼんやりと、物思いにふけっていた。
(……あぁ、最悪だ。こんなつもりじゃなかったのに)
いつも悪い癖が出る。
誰かに攻撃されると、やり返さずにはいられない。
自分を傷つけた相手のことを、完膚なきまでに叩き潰してやりたくなる。
いつも穏やかでいたいのに。
態度までは攻撃性を隠せても、個性まではコントロールできない。
(…負けるくらいなら一度試してみようと思ったけど、やっぱりうまく使えなかった)
都市を崩壊させた、初めの一発。
大大大失敗だった。
不合格が確定したであろうその攻撃の後。
試してみることにした。
(まぁ、爆豪くんには悪いけど)
仕方がない
仕方がないから
今日、この時間を目一杯使って
彼には
個性を使いこなせるようになる為の、練習相手、もといサンドバッグになってもらおうと決めた。