第16章 なりたかったもの
爆豪が今まで目にしたことがなかった、人から聞いただけ、盗み聞きをしただけの彼女の個性。
加減しなければ超爆風。
もちろん、こんな個性、現代社会の街中で人に向けては使えない。
だから彼女は何度も何度も自分の身体に爆風をぶつけ、自分の身を刃に、爆豪へ戦いを挑んできていた。
けれど、肉弾戦では爆豪に勝てないと悟ったのだろうか。
避けて避けて避けて避けて、結局。
彼女は爆豪に向けて個性を使った。
「ようやく化けの皮剥がしやがったな!!ッハ、かかってこいや!!!」
『ーーーー。』
その声に反応し、俯いたまま、うなだれていた彼女の顔が爆豪の方へと向けられた。
ガチ、と。
駆け出そうとしていた爆豪の動きと、表情が止まる。
それとは正反対に、立ち尽くしていたが急に彼の方へと駆け出し、自分の背に爆風でブーストをかけ、急接近してきた。
彼女の左眼から立ち昇っている白炎が、一層勢いよく燃え盛る。
至近距離で、が爆豪に片手を向けた。
彼女の殺気を感じ取り、爆豪も躊躇わず最大威力の爆破を放つ。
二人の間に大爆風が発生し、ドドドドという地鳴りのような爆破音が周囲に響き渡った。
彼女は個性を放って爆豪に弾かれ、身体をまた爆豪の懐に瞬間移動で滑り込ませては、矛先を彼に向ける。
先ほどとは打って変わり、高火力の超爆風を至近距離で連発し続ける彼女の両腕を、飛行して背後に回った爆豪が掴み上げた。
そのままガッと後脚を蹴り飛ばされ、仰向けに倒れ込んだ彼女の細い首を、爆豪が片手で押さえ込む。
そして、ぐぇ、という間抜けな声を出して組み伏せられているの顔を、ジッと見下ろした。
「おいコラ」
『………はい』
「爆豪様、もう降参ですって言ったら殺さずにおいてやるよ。とっとと言えや、俺に勝てねぇからって」
癇癪起こしてんじゃねぇよ、バーカ。
そういう爆豪の右の掌が、至近距離で彼女の連撃を退け続けたせいで、赤く腫れ上がっている。
炎症の痛みで細かく震えている爆豪の腕を、ジッと彼女が見つめて、次に爆豪と視線を合わせた。
そして。
『…癇癪起こしたわけじゃない』
まるで。
言い訳になっていない弁明をし始めた。
『…人に向けては使えない個性だけど…当たらなきゃ死なないよね?』