第3章 蒙恬(もうてん)×湯女(ゆな)
「華〜?蒙恬様、もう帰られるから準備しときなさいね」
『は、はーい!』
蒙恬様に最初に出会ったあの日、暇を出されてこのお屋敷から追い出されるかも、なんて心配していたのが信じられないほどに、私は事あるごとに彼に呼び出されていた。
最近では、湯浴み後や朝のお着替えまで手伝うほどに。
とは言っても、
からかわれて笑われて
そんな蒙恬様の笑顔に勝手にときめいて
の繰り返しだ。
蒙恬様に会う度に夢見てしまうこの感情は、何があっても表に出してはならないと分かっているから。
そう深呼吸をして、お帰りになったばかりの蒙恬様と向き合えば、
「たっだいま〜!じゃ、今日もお願いね?」
『はい、蒙恬様』
いつも通りの軽い挨拶に、この方が沢山の兵を率いる士族だと忘れてしまいそうになる。
明日から戦に出ると知っているはずなのに…。
「華?手、止まってるよ?」
『はっ…!申し訳ありません!』
そう再び手を動かそうとすれば、その手首を彼に掴まれる。
このくらいのからかわれ方ならば、以前にもされた事があるから今日は大丈夫………
……っ!?