第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
「名前、ちょっと良い?」
夏休みのある夜、コンコンと自室のドアをノックする音が聴こえた。
「……良いよ」
何となく変な予感を抱いて、ドアを開ける。
深刻な顔のお父さんとお母さんを見て、私はすぐに「それ」を確信した。
「お父さんとお母さん、離婚する事にしたの」
もう慣れていた。
こういう事には。
その筈だったのに……
「……うっ、ぅぐ……ぅうう゛……!!」
「ごめんね……名前!」
「今まで、無理させてごめんな……!」
目から勝手に感情が溢れてきて、立っていられなくなりその場に座り込んだ。
涙を止める事が出来なかった。
お父さんもお母さんも、私を抱き締めて泣いてくれた。
でも、これからはもう出来ない。
どうしてこんな時ばかり、優しいんだろう。
どうしてこんな時ばかり、家族になりたがるんだろう。
今、この時。
誰かに側に居て欲しかった。
私の頭の中に真っ先に浮かんだのは、翔陽だった。
私の側に居て、思いっきり抱き締めて欲しかった。
私より数センチ背が高い彼の、その優しい肩に顔を乗せて、背中に腕を回したかった。
両親に抱き締められている時にどうしてこんな事を思ったのだろう、と考えた。
翔陽の事が好きなんだと分かった。
何故、彼を好きなのかは、分からなかった。
***
私は夏休み中、お母さんと一緒にマンションへ引っ越した。
長い間住んだ家を離れる事に不安はあったが、運良く烏野高校の近くに空き部屋のあるマンションを見つけたから、デメリットばかりでは無かった。
両親が離婚しても苗字を変えなくて済む手続きがあるらしく、役所での手続きや引っ越し作業、学校の夏休みの課題で大忙しだった。
それでも夏休み中、翔陽とのメールは続いた。