第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
『次は10月に試合があるんだ!!これで優勝すれば全国だ!!!!』
『明日からまた東京で合宿だ!!ネコマ高校ってとことか、フクロウ谷っていうのとかいてさ!!
他にも強豪ゴロゴロいて、すげぇワクワクする!!!!』
バレーの話ばかりだったが、今まで知り得なかった世界の話は、私の中の空気を入れ替えるみたいに新鮮だった。
私は翔陽にメールで、両親の離婚を報告した。
最初は報告を躊躇したが、彼には私に起こった大事な事を知ってもらいたかったのだ。
私自身は、この事実を既に重苦しい物と思わない程にまで回復していた。
『そっか、辛かったな。おれ、自分の話ばっかでごめんな』
『良いよ。翔陽の話は楽しい』
返信をして時計を見ると、夜11時を回っていた。
明日も部活だろうし、今日はこの辺にしておこうとカバーをパタンと閉じると、再びスマホが震えた。
『明日、第二体育館に来れる?何時でも、待ってるから』
私は『わかった』といつもと同じ淡白な返信をした。
しかし内心、久しぶりに翔陽に会える喜びで胸が高鳴っていた。
間違いなく、彼は私を揺さぶる存在となっていた。
夏の終わり、窓の外では虫がリンリンと合唱していた。
この音をいつも鬱陶しいと思っていたのに……。
ドキドキ鳴る鼓動を感じながら、耳に入ってくる虫の鳴く音がとても綺麗に聴こえた。
(会えるまで、あと何時間……?)
ベッドに入っても、思考が止まらなかった。
***
翌日、あまり早くても悪いと気が咎め、10時くらいに第二体育館に足を運んだ。
2・3年の先輩だっている訳だし、がっつり中までは入りづらいから、中央にある扉の所に顔を出した。
「あれっ?名前?」
1番最初に私に気が付いたのは、仁花だった。
「どうしたの?」
「翔陽に、呼ばれて」
体育館内で、オレンジ色の髪の毛はすぐに見つかった。
「名前っ!?」
ボールを集めていたところだった翔陽は、それをボールカゴに入れると直ぐ様、中央扉に居た私の所に駆け寄って来た。