第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
「別に良いよ」
余程私の返答が嬉しかったのか、日向は飛び跳ねて喜んだ。
そのジャンプ力に、流石はバレー部だと驚愕したのは言うまでも無い。
それからも日向と影山は昼休みになると毎日、うちのクラスにやって来た。
仁花はテスト明けからバレー部のマネージャーをやる事が決まり、前よりも活き活きしている様に見えた。
テスト1週間前の部活休止期間に入ると、放課後も4人で一緒に勉強をした。
私は家の事があったから時間は夕方5時までと決めていたが、日向とは少しずつ色々な事を話せるようになった。
日向のコミュニケーション能力の高さは勿論の事。
影山の苦手な現代文は仁花が得意で、日向の苦手な英語は私が得意だという理由で、自然に2人組が出来ていた事も手伝った。
「苗字さん。名前って呼んでも良い?」
「えっ?うん……別に良いけど」
「じゃあさ!おれの事も翔陽って呼んでよ!!」
半ば強引に名前呼びをする事になり、また半ば強引にアドレスを交換した。
『今日も勉強教えてくれてありがとう!!授業中、先生の言ってる事が少し分かるようになった!!!!』
その夜に送られてきた初めてのメール。
テンションの高いメールの返事を懸命に考えた。
お父さんとお母さんは、この夜も一言も喋らなかった。
本来、子供である私にとっては辛い事なんだろうけど。
いつだったか……小学3・4年の頃から家庭はこんな状態だった。
こんな環境にも慣れていた。
離婚の事も両親の問題だ。
私がどうこう出来る訳でも無いし、諦めるも何も無い。
小さい頃から、そう思って生きてきた。
だから、辛さは感じなかった。
***
テストが終わり、夏休みに入ってからも、翔陽からは毎日の様にメールが届いた。
『今日さ、角川って所と試合だった!!2メートルの奴が居たけど、勝ったぞ!!!!』
『そう。良かったね。おめでとう』
いつものように絵文字も記号も付けずに返信する。
しかし翔陽とのメールは、間違いなく私を高揚させた。
翔陽が感じた世界が、スマホのスクリーンの中で「生きていた」。
友達とこんなに仲良くなったのは初めてだった。
スマホが手の中で震えると、それが喜びであると同時に小さな自信にもなっていた。