第18章 美化委員の特権【北信介】
「ははっ……き、北くんてほんま……!こういう事、さらっとやんねんな……!」
もう、あかんわ。
「恋愛は圧し強いタイプなん……?」
惚れたら負けや!って勝手に挑んでた勝負に……
暗雲が立ち込めた。
「苗字だからや」
「……っ、ほんまに!素直か!恥ずかしいわ……!」
「それに俺、今まで恋愛経験、一切無いしな」
「それはなんか解る」
やっと暑い事を思い出したら、後ろ首がめっちゃジリジリして、濡れた服も全部気持ち悪い。
自分の身体を今まで支えとった腕も限界に近い。
私は上体を起こした。
北くんも私に続いて身体を起こしたけど、濡れた髪や服が色っぽくて悔しかった。
「ほな……“友達以上 恋人未満”から始めてみる?」
「“友達以上”でええんか?」
「だって……き、キス……してもうたやん。しかも、濃厚な……」
「なら、苗字の恋人にいま一番近いんは、俺って事やな」
脳内に蘇る、校内で何度もしたキス。
もし恋人になったら……なんて考えてもうて、顔がまた茹でダコになったかもしれへん。
「そんな“深い仲”の名前に、ええ事教えたる」
フツーに名前呼びしてきよったわ。
なんなん。
恋愛器用やんか。
「他の美化委員に、今日来なくてええって言ったんは俺や」
それを聴いて、なんやもう色々とショックを受けた。
北くんが嘘をつくとは……世も末やな、と。
「……はぁ!?なに淡々と言うてんの!?」
「そのお陰で仲が深まったやないか」
「人騒がせすぎやろ!!ドアホ!!!!」
でも、確かに響く、この胸の音は……
「それと……」
ほんまに北くんに惚れたから……?
「最初に転んだ時から、名前の下着、ばっちり透けとんで。俺かて我慢の限界やわ」
どうやら美化委員に立候補したのは、正解だったらしい。
皆の為に校内を綺麗にするその度に、この人と居られる特権を手に入れたんやから。
初めての甘い時間は、二人きりのプール掃除。
いつか恋人になるまで、それまで二人でもっと、美化してこう。
後日、私は校内で有名人になる。
あの“北 信介”を呼び捨てし、更に“アホ”と言える強者として。
END