第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
「今日は私が2人に勉強教えておいた」
「そうだったんだ。名前、ありがとう」
「仁花がお礼言う事じゃ無いでしょ?」
「そ、そだね。でもきっと、私を訪ねて来たんだろうからさ」
着席した後、あの2人はバレー部で、仁花はマネージャーに誘われているという事を聞いた。
そして期末テストで赤点を取ると、東京遠征に行けなくなってしまう事も。
そういえばバレー部のマネージャーの勧誘、すごく美人の先輩が私の所にも来たっけ、と、数日前の事を思い出した。
「仁花、マネージャーやるの?」
「まだ考え中……かな」
「なんか面白そうじゃん。やってみれば?」
「んー……」
仁花が羨ましかった。
正に今、新しい事を始めようとしている。
対して、一歩踏み出す勇気も、環境も無い私。
仮に何か新しい事を始めたとしても、周りから一線を引いてしまう自分を、人はどう思うのだろう。
そんな事ばかり、いつも考える。
***
翌日も、日向と影山は訪ねて来た。
「失礼しまーす!」
この日は仁花が居たから、前日ピンチヒッターで先生をした私は用済みかと思っていた。
「苗字さん、今日も勉強教えてくれる?」
だから日向の言葉に驚いた。
正直に言って、頼ってくれる事が嬉しくて仕方無かった。
「今日は仁花いるよ?」
「ごめん、嫌だったよね?」
「嫌とかでは……無いけど……」
たかがテスト勉強なのに。
すごく物欲しそうな目で見つめてくるもんだから、いじわるしている様な気分になってくる。
「影山が谷地さんで、おれが苗字さんに教われば効率が良いかなー、なんてさ」
「お前から『効率』なんて言葉が出てくるとはな」
「うるせー!!影山!!」
知り合ってまだ2日目。
日向だって私の事をよく知らない筈だ。
不思議な人だ、と思った。