第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
学校から家に帰れば独りぼっちの私。
幼い頃からずっとそうだ。
両親は共働きで、2人とも帰りは深夜。
おまけに1人っ子だから、日々の家事は殆ど私の仕事。
放課後や休日に友達と遊んだり、部活に精を出した事も無い。
そして、離婚まで秒読みの段階である両親。
すれ違う両親という家庭環境で育った所為か、家でも学校でも自分を圧し殺す事が当たり前だった。
だから、昔から感情を出すのが苦手だった。
否、出し方が解らない。
「うおー!谷地さんのノートみてぇ!!すげぇ見やすい!!」
「……ありがと」
「苗字さん、何で勉強教えるって言ってくれたの?」
「だから、自分も勉強になるでしょ」
「あ、そっか」
「オイ日向。とっととノート写さねぇと昼休み終わんぞ」
そんなのは口実だった。
誰でも良いから気付いてもらいたかったのかもしれない。
私の存在に……
私のこの、苦しみに……。
「本当にありがと!谷地さんにもよろしく言っといて!」
「……うん、どういたしまして」
「苗字さん、またね!!」
(「またね」か……)
日向は子供みたいな屈託の無い笑顔を私に向けて、影山はペコリと一礼して教室へと戻って行った。
彼がどんな人間かもまだよく知らないのに、「またね」に抱く妙な期待。
もしかしたらこの「またね」には特別な理由なんて無いのかもしれない。
しかし、私の頭には日向の言葉と笑顔が焼き付いてぐるぐる回る。
「あれ?日向と影山くん?」
廊下で2人を見送っていた私の後ろから、委員会の仕事を終えた仁花が戻って来た。