第11章 心の鍵を開けるひと【日向翔陽】
「あれー?谷地さん、今日はいねぇのかな?」
前日の昼休みに仁花を訪ねて来た、オレンジ頭くんとノッポくんはこの日も来た。
期末テストに向けて仁花が勉強を教えてあげているみたいで、前の日に皆でノートを広げているのを私は目にしていた。
随分と楽しそうにワイワイしていたから、本当に勉強は捗っているのか疑問な所だが。
「仁花なら、委員会の仕事に行ったよ」
彼女の真後ろの席である私は、2人に伝えた。
「……そっか。じゃあ今日はナシだな影山」
「おう」
少し残念そうな背中が不憫になって、私は思いきって提案した。
「あの。良かったら……今日は私が教えようか?勉強」
オレンジ頭くんの方は、ぱああっと目を輝かせた。
ノッポくんはいかにも女子苦手って感じで、黙って固まっているだけだった。
「いいのっ!?すげぇ嬉しいですっっ!!あ、おれ、1組の日向翔陽!!こっちのデカいのは影山」
「……ちわっす」
「どうも。私、苗字 名前。よろしく」
「ほんっとにありがとう!!よろしくお願いしやっす!!」
「しゃっす……!」
大きな声に反応して、教室内に居たクラスメイトたちが一斉にこちらを見た。
「苗字さんって、優しいんだね!」
キラキラした笑顔で言われる。
「教えれば自分も勉強になるし」
素っ気ない返事をしながらも、私の希薄な人間関係の中で誰かに必要とされるのは嬉しかった。
そんな事は言える筈が無いが。
私自身、人付き合いが嫌いな方では無い。
しかし昔から感情を出すのが苦手で、近寄りがたい人間だと思われている様だ。
本当の友達なんて居ない。
だから「優しい」なんて、長年の学校生活で初めて言われた言葉だった。