第10章 レモンティー同盟【黒尾鉄朗】
「……じゃあさ」
「なに?」
俺が立ち上がると、2人だけの静かな生徒会室の床にパイプ椅子の脚が擦れた音が響いた。
「俺の事……もっと知りたい?」
マジな顔で苗字を見れば、大きな目を一層丸くして、不思議そうに俺を見る。
「俺は苗字の事、もっと知りてぇな」
「え?」
「苗字はどんなモノが好きかとか、どんなヤツが好きかとか……」
「黒尾くん?」
「コレの味もな」
「あ……」
苗字の前に置いてあったレモンティーを一口飲む。
甘酸っぱいレモンの風味と、紅茶の渋味が口の中に広がった。
「ちょっ……」
「間接キス、しちゃった」
さっきまでとは急に波長が変わった俺に、苗字はただ戸惑っている様子だった。
「まだあるよ?苗字は……
……俺の事どう思ってんのか、とか」
苗字は頬を少し赤らめて、俺を見た。
俺はゆっくり戸の方へ向かい、鍵をロックした。
真剣な顔をして苗字に近付いていくと、彼女はそれに合わせて一歩ずつ後退した。
自分より30センチ位背の高い俺との距離が縮まり、徐々に苗字の目線が上を見上げるものになる。
端に追いやって、苗字の顔の横で壁に両手をついて囲んだ。
「壁ドン」ってやつだ。
「……名前のその、唇の事もな」
「く、黒尾くん……?」
「試してみる?……今度は直に、俺とのキス」
苗字は、顔を真っ赤にさせて答えに困っていた。