第10章 レモンティー同盟【黒尾鉄朗】
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自販機でコーヒーを買い生徒会室に戻り、再び苗字とちゃっかり昼休みを過ごす。
「黒尾くん、せっかくのお昼休み……ここにずっといるの?」
「イヤ?」
「う、ううん。全然……イヤとかでは。でも、少しだけ作業が残ってるの。だから、片付けながらお話するのでも良い?」
「いいネ、それ。大歓迎」
「ありがとう」
苗字はテキパキと作業を進めた。
先程運んできた箱の中身を軽くチェックし、書類をホチキスで留め、種類ごとにファイルに仕舞った。
俺は苗字の手際の良い作業を、じっと眺めていた。
綺麗に整った爪先と白くて細い指、書類に目を通す時の伏せた目なんか、妙に色っぽかった。
「苗字ってよぉ。何でそんなにしっかりしてんの?」
「強いて言えば、小さい頃から弟たちの面倒見てたから、かな」
「弟たち?何人?」
「2人。弟同士が双子なの」
「……そりゃ大変だったな」
「楽しい事もあるけど、小さい頃はやんちゃで大変だったなぁ。今は中学2年になったよ」
思えば中学も高校も同じなのに、苗字の事をあまり知らない俺。
「そういえば黒尾くん、それブラックコーヒーだよね?」
「そうダヨ」
「オトナだね。私、苦くて飲めないや」
「……そうか?」
他愛ない会話から、またひとつ苗字の事を知れた。
それだけなのに、たまらなく嬉しい。
ひとつ彼女の事を新しく知る度に、まるで初恋の相手を見つめている様な、甘酸っぱくて心臓をきゅっと掴まれる感覚がした。
(……俺、すげぇドキドキしてる……)
「……黒尾くんとはさ」
「ん?」
「中学から一緒なのに、私のまだ知らない事が沢山あるんだね」
苗字は作業の手を一旦止めて、俺の目を見て言った。