第10章 レモンティー同盟【黒尾鉄朗】
「よいしょっと」
生徒会室の戸が開き、さっきの女子がもう1つ段ボール箱を持ってきた。
「あれ?黒尾、まだいたの?ありがとね」
「おー」
「……あー……じゃあ私、お昼まだだから。名前、放課後男子が来たら続きやろー」
「うん、お疲れ様。ミオ」
意味深な間を開けて、彼女は生徒会室を後にした。
狭い生徒会室に男女が2人きりという状況。
加えて、俺のマジな気配でも察したのか、完全に気を遣われたようだ。
まぁ苗字に近付けるチャンスなんて無ぇから、利用させてもらいますケド。
そんなラブな展開は微塵も考えて無さそうな苗字はパイプ椅子を引き出して、良かったら座って?と俺に言った。
「苗字、昼飯は?」
「何となく済ましたから、大丈夫」
「何となく?お前、ちゃんと食ってんの?」
「パン食べたよ」
「1個だろ?」
「私の事より黒尾くんは?運動部はこれからIH予選なんだから、いっぱい食べて力つけなきゃ」
苗字はテーブルの上に置いた、レモンティーを1口飲んだ。
「それレモンティー?好きなの?」
「うん。大好き」
「いつも女子っぽいよな、苗字って」
「そう?ありがとう」
これだけの事で嬉しそうに微笑む苗字が可愛い。
こんなウブで女子力高いタイプ、今まで俺の周りには居ねぇから。
生徒会長やってる時の苗字は、颯爽としてて誰にも頼らないって感じなのに……
今は何でこんなに、ホンワカするんだ。
「荷物持ってくれたお礼に、飲み物でもご馳走させて?」
苗字は椅子から立ち上がって小さい財布を持つと、一緒に飲み物を買いに行こうと言った。
「いいって。気ぃ遣うな」
「いいから。あって困る物でもないでしょ?」
にっこり柔らかく微笑む苗字に、俺は負けた。