第9章 バンドガール・ラバー【澤村大地】
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後夜祭はグラウンドで、いわゆる「未成年の主張」が行われていた。
好きな子に告白する奴、何かを懸命に訴える奴、カミングアウトする奴。
それを聴いてる人も居れば、聴かない人も居る。
自由で適当な時間だった。
友達、カップル同士で過ごす人……各々がやりたい事をしていた。
クラスやライブの片付けが終わった名前は、俺の隣に居た。
校庭の端っこの植え込みに、2人で並んで座っていた。
「ライブ最高だった、名前。もっと聴いてたかったよ」
「ありがとう、大地」
夕焼け色に染まる、名前の頬。
その赤らみは、夕焼けのせいだけでは無い事は解っていた。
「名前の気持ち、ちゃんと伝わったよ」
「気付いてくれて良かったぁ」
「俺の事ガン見だったろ?気付いた奴も多いぞー?スガと旭は終始ニヤニヤだったし」
「覚悟の上です!って、自分でした事だけど、なんか痛い奴だったかな……?」
「いや。他の男共がお前の事、諦めてたしさ。俺としては願ったり叶ったりだよ。それに曲自体も、すげぇ最高だった!」
「サンキュー!高校最後のライブが、あの曲で良かった!」
名前と話す時間が、いつもより特別に感じた。
「今日、顔、なんかしてんの?」
「なんか?アハハ……マスカラとリップだけ」
いつも綺麗な唇が、更に紅く潤っていた。
「……そういうのも似合うよ、名前」
俺を誘うその色と艶に、自然と吸い寄せられていく。
キスまであと数センチの位置で囁いた。
グラウンドのステージで、誰かが叫ぶ声が聴こえていた。
誰か見ているかもしれない。
そう考える前に、唇を重ねていた。