第9章 バンドガール・ラバー【澤村大地】
「やべぇ……声、綺麗……」
「スガぁ、惚れたか?」
「そんなんじゃねーし。褒めただけだし」
スガに茶化して言う俺自身がやばかった。
いつも話してる声とは違う、透き通った名前の歌声。
女子らしい高くて繊細な声なのに、ハスキーで力強い。
頬を上気させて、力一杯歌ってギターを掻き鳴らす名前。
口角を上げてニコニコしていたり、
目を閉じて高い声を絞り出していたり。
一瞬くしゃっとなる表情だって、可愛い。
時折ギターの弦を確認する名前の、斜め下を見る流し目は色っぽく見える。
「かっけぇー……圧倒されるなぁ!」
「うちの軽音って、レベル高いんだな……!鳥肌立った!」
隣のスガと旭が、顔を見合わせて言った。
「俺もだ……!」
俺も2人の話に入った。
俺はステージの上の名前に完璧に魅了された。
ステージの上から、初めて見る名前の魅力が捌ききれない速度で溢れてくる。
友達の名前とは違う顔。
名前が一番、輝いて見える場所。
他の男からの目は気掛かりな所もあったが、ライブを見ているうちに気にならなくなった。
5曲の演奏が終わり、体育館のボルテージは最高潮に達した。
「フゥーッッ!!」
「アンコールー!!」
「ええー!もう終わりなのー!?」
前方から、観客の声が聴こえてくる。
「ここまで聴いてくれてありがとー!!次が最後の曲です!」
もう少しで名前のライブが終わりそうな事に寂しさを覚え、素直にもっと聴いていたいと思う。
ただ、以前名前が教えてくれた、自分で書いたという曲はまだ披露していないようだ。
次はきっとその曲だ。
名前の曲があと1曲聴ける。
期待感が高まる。
「この曲は私が、ある人に向けて作詞作曲しました。今日はその人の為に、心を込めて歌います!」
名前はエレキギターを、アコースティックギターに持ち替えた。
他のメンバー4人は袖へとはけ、ステージには名前1人になる。
「聴いてください……『Rainy day』」
先程までの重厚なロックと雰囲気は打って変わり、しっとりとした曲調の弾き語りになる。