第9章 バンドガール・ラバー【澤村大地】
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それからは名前や彼女の周りに変わった事は無かった。
あっという間に春高一次予選、夏休みが終わり、文化祭当日を迎えた。
クラスの出し物の分担を終えて、俺はスガ、旭と共に第二体育館へと急いだ。
バンドが奏でる重低音が、体育館の手前から響いてくる。
「名前のバンド、順番最後だから間に合ったな!」
「お~、盛り上がってんな!」
第二体育館は軽音部のライブによって、熱気に包まれていた。
スポットライトも用意され、いつもここでバレーをしているとは思えない、非日常な世界が広がっていた。
ステージの前方には、演奏中のバンドを盛り上げている他の軽音部と、ノリの良い元気組や外部来校者でゴチャついていた。
そういう雰囲気があまり得意では無い俺達3人は、体育館の後方に立つ。
「お、出てきた!名前だ!」
スガがステージを指差す。
「トリを勤めさせてもらいます『POISON APPLE EATERS』でーす!よろしくー!」
制服姿の男女5人組がステージの袖から出てくる。
名前は華奢な肩から、重厚な黒いエレキギターを掛けていた。
名前のバンドの演奏が始まった。
「あ、これ俺と名前が好きなバンドの曲!」
旭が嬉しそうに言う。
「きゃー!名前ー!!かっこいー!!」
「ハヤトー!いいぞー!!」
観客の声援はこれまで以上の盛り上がりを見せる。
「なぁ、苗字さんってさ……めっちゃ良くない!?」
「可愛いし、歌もギターもサイコーじゃん!チャラい感じかと思ってたけど、拘りあってかっこいい系!?」
「えー、後夜祭でイってみちゃうか!?」
俺たちの前の列にいる奴らが、大きな声で話しているのが聴こえた。
───なんでだ、なんか嫌だ……。
ここにいる男共、皆名前目当てなのか?
しょうもない思考が頭をよぎる。
「どんどん行くよー!!ついて来てねーっ!?烏野祭ぃーっ!!!!」
「「イエーイ!!!!」」
悶々とする俺とは対照的に、名前はステージの上で輝いていた。