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【ハイキュー!!】短編集~Mint tea~

第9章 バンドガール・ラバー【澤村大地】




***


俺が傘を持ち、2人で並んで歩く。


「練習、見せてくれてありがとね。元気な皆を見てたら私も元気貰った。大地たちがバレーしてるのも新鮮でかっこよかった!」



速いと言われないように、名前に歩調を会わせて歩く。

さっきまでの大雨は早くも弱くなってきていて、2人で並んで歩くのはさほど大変では無かった。



「そっか。でも無理すんな。何かあればすぐ言えよ」

「ん!ありがと」



いつもより名前との距離が近くて、時折当たってしまう肩に力が入る。

軽く当たっただけの左肩は、意識が集中して落ち着かない。



「……」

「……」



もうすぐ名前の家に着いてしまうのに、沈黙が続く。


もっと話していたい、のに。



でも昼間の出来事で本調子では無い名前に、無理をさせたくない気持ちから話し掛けるのを躊躇う。




「あのさ、大地」

そんな中で沈黙を破ったのは名前だった。



「……私、今ね。9月の文化祭でやる曲を1曲書いてて、今日も部室でその作業してたの」

「へぇ、そうなのか!曲作るなんてすげぇな」


ちょうど名前の家の前に到着し、足を止める。

雨はもうかなり落ち着いていて、小降りになっていた。




「……その曲さ。大地に聴いてもらいたいの。

だから、軽音のライブ……絶対に来てよ!」


「ああ、クラスの方は調整して勿論行くよ」



「……ありがと!絶対だよ?

……あ……ねぇ、大地?」



まだ何かを伝えたそうに、名前は俺の顔を見上げた。



「ん、何?」



傘の中という狭い空間で、名前は俺の顔を何秒もまじまじと見つめていた。



心臓の音が速くなる。



ポツポツと傘に当たる小雨の音が、やたらと大きく聴こえた。




「……っ、ううん、何でもない!今日は助けてくれてありがとう!皆のお陰でもう全快だ!」


傘から出た名前は、赤らめた顔でニカッと笑う。

本当に本当にありがとう!と言って家の中に入った。



名前を雨から守る為に、傘からはみ出ていた俺の右肩は濡れていた。


「……良かった」


それは元気な名前に戻った事で、俺の口から出た心からの言葉だった。

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