第9章 バンドガール・ラバー【澤村大地】
「だ、だって、他に好きな人出来たとか言って……だいぶ前にフってきたのそっちじゃん」
そいつに続いて部室から出てきたのは名前だった。
「……っざけんなよ!!」
「うっ!」
次の瞬間、名前はその男から思いっきり平手打ちを食らった。
かなり強く叩かれたのか、名前は勢いでバランスを崩してしまった。
幸いにも、俺達バレー部全員が目撃していた事で早い対応が出来た。
「おい!何やってんだよ!?」
俺とスガ、田中と西谷がすぐに駆け寄る。
その男は俺達の学年で、遊び人で有名な奴だった。
「大丈夫!?」
清水は名前の介抱に向かい、他の部員たちも順に駆け寄ってきた。
「お前、女の子に手ぇあげるってどういう事だ……!?」
強い怒りが込み上げる。
問題行動に巻き込まれないように、なんて、この時は考えも出来なかった。
「チッ」
俺は叱責して、一般よりも長身で迫力のあるバレー部に囲まれたそいつは、舌打ちをするとすぐに行ってしまった。
「名前!!」
俺はすぐさま名前の元に駆け寄った。
その頬は赤く腫れ上がっていた。
「名前、大丈夫か!?」
「……うん、ありがと皆」
「すぐ手当てしないとな。清水と谷地さん、頼める?」
「うん、任せて」
「だだだ大丈夫ですかぁっ!!??きゅ、きゅ、救急車とか……!!??」
「呼ばない呼ばないっ!手当も……大丈夫だよっ」
「いいから」
「大地さん、今のすげぇかっけぇっす。にしてもさっきのヤツ、下衆ヤローだな……」
その場は清水たちに任せて、俺たちはロードワークへと向かった。
下級生達の手前そうするしか無かったが、とてもロードワークなんて出来る状態では無かった。
平静を装う自分をどうやって保っていたか、俺自身も分からない。
頭が部活から完全に逸れたまま。
こんな事は初めてだった。