第9章 バンドガール・ラバー【澤村大地】
「じゃ、始めんべー」
旭の目の前にはスガ、苗字の目の前には俺が座る席位置になる。
女子だからって無条件に意識するとかでは無いが、1つの机を2人で使う距離感が近くてさすがに緊張する。
「この『who』は関係代名詞だから……」
「……うん……??」
字を書いている所を、女子に至近距離で見られるというのも慣れない。
苗字は顔立ち自体は可愛い系で、ヤンキーみたいな言動も無かった。
時間が経つうちに、ごく普通の、どこにでもいる子だと分かった。
「2人とも、今日はホントにありがとう!」
「おう!明日もまたやんべ!」
早くも苗字と打ち解けていたスガは、さりげなく明日の約束までしていた。
夜7時近くまで勉強していた俺達。
苗字を家に送っていく事になり、彼女と家の方面が同じ俺がその役に抜擢された。
「バレー部3年はまだ引退しないんだねー」
「ああ、次の大会で全国目指してるからな」
なんて、当たり障りのない会話をしていた。
「苗字さんは何か部活やってんの?」
「軽音。ギタボなんだぁ」
「???」
「ギター&ボーカルね」
「へぇ、歌いながら楽器弾けるってすげぇな」
「まだまだ修行中!9月の文化祭でライブやって、それで部活は引退!」
「へぇー。旭とは仲良いの?」
「うん、3年になってから仲良くなって!東峰と好きなバンドが同じでさ、話が弾むよー!」
「バンドかぁ。旭はそういうの好きだからな」
「澤村くんは何か音楽聴く?」
「俺は……特には聴かないかな」
「ははっ、何かそれ分かるかもー」
社交辞令的な会話をしていたが、苗字の家に到着する頃にはもっと話したくて時間が足りないとさえ思った。
それと、隣に並んでいても大きな瞳できちんと俺を見てくれる苗字に好感も持った。
「送ってくれてありがとう!また明日!おやすみー」
ニコッと微笑んだ苗字が、道端の街灯に照らし出される。
「おう。おやすみ……じゃなくて、忘れないうちに復習な」
「えー!はぁい!」
見た目のイメージとは異なる、苗字の素朴で朗らかな性格。
緊張もしたが、明日の勉強会からは大丈夫そうだ、と思いながら俺は帰路についた。