第1章 キスから始まるストーリー【澤村大地】
数十秒の沈黙が流れる。
「……き」
「うん?」
「……すき、です」
「俺も好き。1年の時からずっと」
「えっ、うそ」
「正直、遊ばれてるって思ってた。でも苗字とキスできるならこれで良いとも思ってた」
ひとまず苗字の気持ちが確かめられて、俺は安堵した。
「なんで告白してくれなかったんだよ。順番逆じゃねぇか」
キスが終わったままの至近距離でおでこを合わせ、互いの本心を打ち明ける。
「……だって、だってさ……」
「なーに?話してみ?」
そのまま苗字の腰に手を回し、優しく抱き締める。
「……私なんて、友達にしかなれないって思ってたから……」
何度もこれだけのコトをしておいて……本当に驚く。
「……女バレの、結ちゃんの事……好きだと思ってたから、澤村くん……」
「なんで道宮が出てくんだよ」
俺とキスしてる時は堂々としてるし、同い年なのに大人の色気とか余裕すら感じさせていた苗字だったが、今は恋愛に一喜一憂する普通の女子高生に見えた。
「……私も1年の時から好きだったんだけど、澤村くんと同じ中学のバレー部だった結ちゃんの事を差し置いて告白できなかった。
だって、結ちゃんの方がもっとずっと長い間、澤村くんのこと想ってたって分かるから!」
「……苗字、お前」
優しすぎだろ。
「でも、私、好きな人に対してだけキス魔?っていうのかな。誰彼構わずキスしたい訳じゃ無いんだけど、キスの時だけ強気になっちゃう、っていうか……あはは」
「まったく、俺の気も知らないで。好きでも無い奴とこんなコト出来ねぇって」
「……ごめん、そうだよね。でも、澤村くん見てるとね、キスしたくなっちゃうんだ。好きなのは本当だよ」
「はは……告白出来ずに、俺のこと襲うまで我慢してたってこと?俺から告白しとけば良かったよ」
「好きすぎて発情しちゃった……澤村くん、されるがままだったし……」
色々と不安にさせちゃってごめんね、と苗字はポツリと呟いた。