第8章 息をしていて。【菅原孝支】
「そんな高いヒール、履いてくるからだろ?」
フルレングスのデニムに素足でパンプスを合わせていたせいで、実は私の踵は痛々しい事になっていた。
最近部活ばっかりだった孝ちゃんとの久しぶりのお出かけで、気合いを入れすぎてしまった結果だ。
「とりあえず低い靴でも買うか?俺、絆創膏もあるし」
女子力が止まらない。
それなのに私ときたら。
告白する勇気も無ければ、可愛くないしすぐ凹む。
私……孝ちゃんに見合う女の子になれそうもない。
「……うぅっ」
「ど、どうした!?名前!」
涙が勝手に流れ出してきた。
周りの人が、孝ちゃんと私をジロジロ見ている。
なのに孝ちゃんは、私に優しい言葉を掛けてくれるんだ。
痛い。
靴擦れも、私も。
「とりあえず、あそこ座ろ!歩けるか?」
孝ちゃんの腕を借りて、ショッピングモール内のベンチに向かう。
足が痛いし情けないしで、もうどうやって歩いて行ったか分からない。
遠く遠くに感じたベンチにやっとの思いで辿り着き、可愛げも無くドサッと腰を下ろした。
「名前、今日はどうした?話も上の空だし、変だぞ」
「……うぐっ」
ティッシュで涙を拭くと、頑張って施してきたアイメイクが虚しく滲んだ。
「……ぐすっ……孝ちゃんとのお出かけ……おしゃれ、したかったの……ごめんね」
無意識に涙が出てきて止まらない。
「可愛くなくてっ……ごめんね……」
私、面倒くさいヤツだよね。
「名前……ありがとな」
……お礼なんか、言わないでよ。
もっともっと、惨めになるから。
「名前のそういうとこ、俺は好きだよ」
そう言った孝ちゃんは、私の肩を抱き寄せてくれた。
「……嘘だ」
「嘘言うかよ」
やたらと距離を詰め、私の身体を更に引き寄せてくる。
「そんなにくっつくと、彼女だと思われちゃうよ……?」
また可愛くない事を言ってしまう。
『ドキドキするよ』
『嬉しいよ』
って本当は言いたいのに……。
『私も優しい孝ちゃんが好きだよ』って言いたいのに。