第8章 息をしていて。【菅原孝支】
「そんでさ、清水がまたナンパされそうになったんだよ。本当モテるよな」
孝ちゃんの口から、美人のバレー部マネ、潔子ちゃんの名前が出るといよいよ面白くない。
学校一の美人と同じ部活だなんて……
自信が持てる訳が無い。
自分でも分かってる。
ウジウジしてるだけの、何にも行動出来ないヘタレだって。
こんな私を孝ちゃんが好きになってくれる筈が無い、って。
こんな事ならバレー部マネージャーの勧誘、断るんじゃなかった……と今になって後悔する。
孝ちゃんがバレーしている所を見てしまったらきっとカッコ良すぎて卒倒してしまうと思って、1年生の時に誘いを断ったのだ。
今更、やっぱりやるとも言えない。
伝えられない気持ちを抱き続けて、後にも先にも進めない関係。
距離は近いのに……
恋愛にはならない二人。
ああ、もう……
隣で彼が、息をしているだけで好きなのに……。
私の方は、息するのも大変なくらいドキドキしているというのに……。
「名前、俺の話聞いてる?」
「えっ!うん!」
「ホントかよ」
そうやって顔を覗き込んでくる孝ちゃんの上目遣いも、私の左胸を速めるって自覚しているのだろうか。
「せっかく名前と買い物に来てるのにー。なんだよーもー」
唇を尖らせる孝ちゃんも可愛い。
男の子なのに、その辺の女の子よりも可愛い言動。
実は女子で、男装でした!とか言わないよね……?