第18章 美化委員の特権【北信介】
意外なゴツゴツした手と、ほのかな微笑み。
こうやって絆されるんや。
掌で転がされるんや、って解っとったのに。
「……頭は、平気……」
優しく言われると、妙に勢が引っ込んでまう。
ドキドキしながら北くんの手に自分のを重ねると、私を落ち着かせるフェロモンでも出してんのか、と思う。
数分前に、この人にあんな事されたんや。
“男”って事……やたら意識してまうやないか。
私の手の甲をちゃんとぎゅって掴んで来るもんやから、こっちも自然と彼の手を握る形になる。
「あ……ありがと……」
「そそっかしいな、苗字は」
北くんの手をしっかり掴んで、私は腰を上げた。
そしてこの時、再びアクシデントが襲った。
「あっ……!」
「!」
また苔に、足を取られたのだ。
私を庇ってくれた北くん諸共、今度は前に倒れ込んで掌と膝を強打した。
「痛たた……北くん、大丈……」
水しぶきを避けようと、反射的にぎゅっと瞑った目を開いた。
水が滴る自分の髪の毛の先に、私に押し倒された体制の北くんがおった。
「随分積極的やな、苗字」
プール底に、完全に背中が浸る北くん。
その彼の胸の上に、うつ伏せで倒れる私。
プールの水か、冷や汗かも判らない水滴が頬を伝った。
「わあああ!!ご、ごめん!!すぐどくから!!」
髪も体操着も下着も、全部ずぶ濡れ。
服が肌に纏わり付く不快感や、苔で汚れた水のヌルヌルなんて二の次で……
なんちゅう事をしてしまったんや!!が、頭を支配する。
太陽はそんな私らを嘲笑うかの様に、相変わらずギラギラと光を地上に送り続けていた。
「ええよ、どかんで」
「え……」
ブラの背中のホック辺りの位置に、北くんの両腕が乗せられた。
二人の身体が密着して、彼の熱が伝わる。
「なっ……ちょー待って……!」
「どうせ二人共ずぶ濡れなんや。もうちょっとだけ、こうしてよ」
ドキドキドキドキ……
心臓……黙れーー!!!!
北くんの端正な顔立ちが至近距離に。
その目はしっかりと私を捕らえていて……
「ほんまにアホやな、苗字」
唇をまた……
重ねてきた。
「そういう苗字が好きや」